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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
吉武 聡一 デジタル・クリエイティブ・プランナー
デジタル・クリエイティブ・プランナー

フィジカルとバーチャルの濃度

2019/10/03
こんにちは。
デジタル案件を中心にクライアントワーク、協業に取り組んでいるNOMLAB所属のプランナー吉武聡一です。
※NOMLAB【Nomura Open Innovation LAB】とは「デジタルイノベーション× 場づくり」をテーマに新しい集客創造を目指す乃村工藝社のラボです。

暑い日が続き、ようやく秋の匂いがしてきた今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。例年通りの猛暑の中で、私はエアコンを発明した方に毎年のごとく感謝するのですが、私の今年の夏の過ごし方は例年とは大きく様変わりしていました。というのも、自分が家に帰れば魔法のようにエアコンがつき、深夜1時になると自動的に部屋の照明が消えます。そしてテレビを見たいときにはこう言うのです。

「Alexa、テレビをつけて」

そう、Amazonのスマートスピーカー「Amazon Echo」です。Amazon Echoは以前から発売されていましたが、Amazon Echoに接続するIoT(Internet of Things)デバイスを購入することで、私の生活は一変しました。ボタンを押して家電を操作する行為は減り、音声や行動でデバイスを制御するようになったのです。インターネットが登場してから世界は大きな変革を遂げ、人間の生活も圧倒的に便利になっています。昨今では多くの方が次なるインターネットを開発しようとさえしています。長い間、物質的なもの(=フィジカルなもの)が多くを占めていた世の中から一変して、質量を持たないデータや情報といった仮想的なもの(=バーチャルなもの)とフィジカルなものが混在し、両者が影響しあう世の中になってきています。極論を述べてしまえば、世の中にあるすべての空間がバーチャル上に再現されてもおかしくないような時代に突入しているのです。

そのような時代の中で空間というフィジカルが持つ価値とは何なのでしょうか。バーチャルが持つ可能性をフィジカルに融合するとはどういうことなのでしょうか。最近私は以下のように考えています。

「空間はバーチャルの濃度を調整するための器であり、空間活性化とは、用途やニーズに合わせて濃度を適切な値に設定することで、来訪者が求める最高の価値を提供することなのではないだろうか。」


私はすべてのフィジカルがバーチャルに置き換わる世界が来ることはなく、フィジカルをベースにいかにバーチャルを取り込むかが世の中のあり方であり、空間のあり方だと思っています。
 

XRについて



ところでXRという言葉をご存知でしょうか。近年頻繁に使われ、耳にしたことがある方も多いと思います。諸説ありますが、これはX Reality(クロス・リアリティ)の略称で、VR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)/MR(Mixed Reality)の総称です。それら3つは考え方が大変近く、違いが分かりにくいという特徴があります。世間には「VRとARの違いについて」や「ARとMRの違いについて」など、その違いを解説する記事が多く出ていますが、私がとある方から伺った「VRとARの違いについて」の解説が大変興味深かったので紹介します。
その方はVRとARの違いはCGの濃度の違いであると定義していました。VRをCGの濃度が100%の世界だとすると、現実はCGの濃度が0%の世界。そしてARは現実とVRの間であるCGの濃度が99%~1%の世界。つまりVRとAR、現実は別物ではなく、連続しているものだと述べていました。
 

ARと空間の関係性


そのような背景の中で先日大きな話題になった『WIRED』の特集があります。皆様もご存じかもしれませんが、2019年6月発行の『WIRED』日本版VOL.33「MIRROR WORLD - #デジタルツインへようこそ」です。その特集の文章の一部を以下に引用します。
 

〈インターネット〉の次に来るものは〈ミラーワールド〉だ ── 。現実の都市や社会のすべてが1対1でデジタル化された鏡像世界=ミラーワールドは、ウェブ、SNSに続く、第三の巨大デジタルプラットフォームとなる。世界がさまざまな手法によってスキャンされ、デジタル化され、アルゴリズム化されていく過程に生まれるミラーワールドへと、人類はダイヴしていく。

 
この記事によって私の周囲は大きくざわつき、頻繁に「ミラーワールド」という単語を聞くようになりました。今までは映画の中でしか体験できなかった夢物語が現実になることをほのめかす内容だったからです。現実世界と鏡像世界が重なり合うように存在し、例えばメガネ状のARグラスをかけることで、現実世界から鏡像世界を覗くことができる、すなわちフィジカルとバーチャルが共存する世界がやってくるというのです。そしてこの記事が示す未来の姿はCGの濃度が100%のVRの世界ではなく、CGの濃度を操作できるARの世界でした。濃度が100%ではないということは、ARを活かすためには空間的要素が欠かせないということなのです。

先日参加したARのイベントの中で開発者の方が大変興味深いことを述べていました。

「今まではいかに面白いARを開発するかを考えてきました。しかし、あるタイミングで大きな壁が現れました。ARを面白くするには空間デザインが必須であるということに気が付いたのです。しかし私には空間デザインのことが全く分からないので、空間のことが分かる人にぜひ協力してほしいのです。」

ここで私が感じたことは「今まではARに対して鏡像世界からしか向き合わなかったけれど、これからは現実世界(空間)からのアプローチも必要である」ということでした。
世の中がミラーワールドになる時代に、ARにあわせた空間を考えていくことも大変重要な課題だと思いました。
 

その中でも消えないフィジカルの価値


さて、ここで別の視点から考えたいことがあります。なぜ私たちは春には桜を見に行き、夏には花火を見に行くのでしょうか。なぜ私たちは遠く離れた親友に会いに行くのでしょうか。もしそれらすべてがバーチャルに置き換わってしまったとき、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。私がバーチャルを学びながら、フィジカルの世界で働くのにはその点の考えがあります。濃度0%の世界でしか魅せられない世界があります。

バーチャルの世界は視覚と聴覚に大きく依存していますが、空間にはそれら2つでは補えない価値があると信じています。そもそもひとはフィジカルな生きものであり、寝食は必ずフィジカルで行います。ということは、フィジカルにしか魅せられない要素が空間からなくなり、全てがバーチャルに移行することは考えにくいのではないでしょうか。
 

建築というフィジカルが作ってきたバーチャルの世界



浅学ですが、最近私は日本を代表する建築を訪れることを趣味としています。そこには偉大なる建築家がつくりあげた壮大な作品が堂々と存在しているのですが、ふと気づくことがあります。バーチャルという概念がない時代のフィジカルの世界にもかかわらず、明らかにバーチャルが存在しているのです。例えば古いお寺を訪れれば、そこには仏様を思うシーンがあり、美術館を訪れれば、そこには一つの芸術から広がる妄想の世界が存在している気がするのです。つまり昔から空間にはバーチャルが存在していたのではないでしょうか。そして建築家はそのバーチャルを加味して空間をデザインしていたのではないでしょうか。今まで空間に存在していたバーチャルを具現化することが正しいかは分かりませんが、良い空間にはそのようなバーチャルが存在するのではないでしょうか。つまり濃度0%の世界でしか魅せられない要素を活かしながらも、バーチャルによって空間の可能性を拡張することができると私は考えるのです。温故知新ということわざがあるように、よい空間とは何かを考えながら、過去のことも学んでいきたいと思います。
 

空間を媒体としてつくっていく今後の未来


現在の時代から見るに、今後バーチャルの技術を無視することはできないでしょう。またバーチャル技術はさらに新たな時代をつくっていくのだと思います。その中で、私はバーチャルとフィジカルの濃度を操ることによって、どちらかだけでは成立しない、よりよい空間、ひいては未来をつくっていきたいと思います。

 最後に、いくら未来を描こうとも実現しなければ意味はありません。私たちができることは、日々ひとつずつ、できないことをできるようにしていくしかないのでしょう。そのようなスピード感の中で、コラボレーションすることは大きな力になります。一人ではできないことが二人ではできるようになります。私はまだまだ未熟者ですが、これを読んでくださった方々が少しでも興味をもってくださったなら、下のフォームからぜひお声をかけていただき、共に少しでもより良い世界をつくることができればと思います。
 
拙い内容でしたが、お読みいただきありがとうございました。

 
吉武 聡一 デジタル・クリエイティブ・プランナー
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