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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
望月 美那 プランナー
プランナー

NTTドコモとの協業にみる『次世代コミュニケーション』

2019/12/26
皆さんは、人とのコミュニケーションについて考えることはありますか?

好きな映画の話で盛り上がって距離が縮まったり、初対面の相手にどう接すればいいのか分からず緊張したり、
謝りたかったのについ怒ってしまったり…きっかけは人それぞれあると思います。

私たちは普段、感じたことを「言葉」や「表情」に変換して相手に伝えています。
もし、心や身体が発する感情がそのままの形で相手に伝わったら、
人のコミュニケーションはどのように変わるでしょうか?
 

2019年11月、乃村工藝社はNTTドコモと『次世代の新たなコミュニケーション』を実現するために協業を開始しました。このプロジェクトでは、言語や表情などによる従来のコミュニケーションに加えて、感情や身体データなどの「人の内面」の情報をIoTと空間演出によって可視化します。この内面の感情が揺れ動く様子を相手と共有して、より深くお互いを分かり合う「次世代コミュニケーション」を実現することを目標にしています。

その第一作となるプロトタイプ『HUMANIC DOME』がICC(NTTインターコミュニケーション・センター)にて11月12日から12月15日まで展示されました。その制作の経緯、これからの展望をNTTドコモ森永さん、徳保さん、NOMLAB高野、望月による対談を交えてご紹介します。

1. 協業のテーマ「次世代コミュニケーションの可能性」


両社は2018年春から次世代コミュニケーションの可能性について検討を開始。定期的にブレストを重ね、メンバーそれぞれの実体験も交えながら人とのコミュニケーションについて次世代のツールがどのようにあるべきか考えました。

森永:ディスカッションでは、「伝達手段の移り変わりによってコミュニケーションが便利になる一方、どこでも誰とでも繋がれることから、逆に監視されているようなネガティブな印象を持たれている」という話から始まりましたね。


 

望月:誰でも携帯を持っているのが当たり前の中、連絡が来たらとるのが普通だし、チャットで既読を付けたら、「なんで見ているのにすぐに返信がないのか」って相手を不快にさせることもありますよね。
 
森永:いつでもどこでも繋がれるっていうのは、確かに今実現できてるんですけど、やっぱりみんなコミュニケーションに疲れてるんだろうなと感じるんですよね。
 
徳保:あるから逆に早く返事を返さないといけないとか、コミュニケーションから逃れられないみたいに考えられますよね。
 
高野:そこで今のコミュニケーションの課題を振り返って、「人とつながることってもっと幸せなことだったよね」みたいな原点回帰の方向で考えていった感じですよね。

2. プロトタイプ第1号『HUMANIC DOME』


『HUMANIC DOME』は、人の感情を表す上での媒体となる「表情」や「言葉」を取り払い、人の根源にある感情の可視化によってコミュニケーションの在り方を問いかけます。
ドームの中の椅子に座ると人のバイタルデータが抽出され、体験者の気持ちの変化によって空の移ろいが変化します。体験者のデータと過去の体験者のデータを比較することで互いの感情の調和・分離状態が、空模様を見るだけで理解することができます。
人から抽出されたデータを数字や文字で表すのではなく、より抽象的かつ直感的に見ることができるように考えました。
通信技術が発達し、便利な社会を目指す一方、あらゆるデータが蓄積され「監視社会」と
いう言葉も耳にする中で、コミュニケーションの原点に立ち返り、より自然な形を追求しました。

2-1. コミュニケーションの原点に立ち返る演出

望月:ディスカッションの中で幸せな空間についていろいろ写真を並べた時、屋外でテントを張ってキャンプしている写真が目に留まって、こういう自然の中に溶け込みつつも、空間としては閉鎖空間になっている場所ってどこかに自由にワープできたような感覚で、人にとって心地のいい空間なんじゃないかって話をしましたね。


 

森永:外の空の景色を見ている様子がこの作品につながっているという感じですね。『自然』という言葉は常にキーワードとしてあったような気がします。
 
高野:焚火なり、星空なりどうすれば心のガードを下げることができるかみたいな話でしたね。
 
望月:そこで森永さんと「人って何かに思い更けているときとか、悩んだり、嬉しい時って不思議と空を見上げる行為が印象に残ります」という話をしました。そこから「空」ってワードが出てきましたね。
 
森永:ルーツの話でいうと、「情報が何もない時って何から情報を得ていたのか?」という話をしました。昔の人は空を見上げた時に天気によってどういう状況なのか判断していたし、現代社会でいうとスマホを見てるという話から、情報が空にあるという意味で天井にスマホを並べたらって話も出ました。

2-2. 目に見えない技術で、心と心をつなげる

本作品では人の安心・緊張状態を判断する、5つのセンシングツールを用意しました。二酸化炭素濃度から呼気を測る環境センサー、背中部分の動きを測る呼吸・重心センサー、足にかけてまで体の座面上の動きを測る座布団センサー、心拍数を測る脈拍センサー。このデータの推移によって、映像の空が変化します。

森永:もともとはこの椅子も、知らず知らずのうちに情報が吸い上げられて、世の中に広がってしまっているってことも表現しようって話になっていたと思うんですよね。でも今その要素は一切出していない。実はそういう暗い側面を投げかける要素もこのドームにできる可能性があると思う。
 
望月:天気の絵ができたことによって、センサリングが勝手にされているっていう監視的なイメージをいい意味で抽象化できましたね。

森永:自分の見つめ直しということでもあったり、ぼんやりと空を眺めて干渉具合を見る、というだいぶ柔らかい印象になりました。
 

【補足】
空の移ろいは時間と天候の二軸で変化します。縦軸では体験者のセンシングされた心理状態が時間軸の中で変化します。横軸では体験者と過去からランダムに選ばれた体験者のセンシングデータが掛け合わされ、その心理状態の調和によって天候が変化します。

 
高野:内面の見え方に付加価値を付けるとか、評価するみたいになるとストレスになっちゃうのかなと思いますね。「今あなたは緊張していますよ」みたいに見せられると逆にどんどんそっちに気持ちが向かって言っちゃう気がするんですよね。だからワンクッションおいて、天気だったり星空に表現するのはよかったのかなと。
 
森永:今のコミュニケーションって、自由意志ですかって言われたらそうでないときもあって、そういったものをもう一回考え直すとか、ドームに入った先に今までのアナログな会話じゃなくて、センシングが待っているというのは、進化と原点回帰が同時に行われている感じがして、コミュニケーションの回復の上を行けているように感じます。
 
高野:ドコモさんの技術でセンシングデータをクラウドに上げているっていうのは、弊社の技術だけでは絶対に出てこない発想で、それこそ地球の裏側の人とコミュニケーションを容易にとれるかもしれないなと。そうした時に、もう少しセンサーや演出の要素を増やして、現段階では二軸で人の『合う』『合わない』が判断されますが、もし少し複雑になっていって本当に波長が合う人に出会える嬉しさとかが変わってくると思います。一緒に入って体験できるようになるのと、会いに行けないくらい遠いところの人とつながれる喜びがあると思いますね。


  

森永:人とつながろうとするとコミュニティであったりとか、趣味であったりとか、自分がつながりたいと思う人は何かを共有できる人じゃないですか。これはそういうのではなくて、心と心の寄り添いでつながることができる。この人と分かってつながるものでなくて、どんな人かはわからないけど心でつながることができますよね。


 

3. 今後目指すところ


 今回のプロトタイプでは一つの場所を用意して、その中で自分自身の内面と向き合い、他者との調和を図ることができるように考えました。しかし今後、人のコミュニケーションの在り方を考えた時、それをどのように発展し、展開するか検討しています。

森永:空間としては今後、ドームではないような気がするんですけど、本質は心であったりとか、人に対してはシンパサイズであったりとか、表現は今回のものに留まらずに更新していきたいですね。
 
望月:スマホを持っていると連絡が来たらどこでも取らないといけない雰囲気があって、そういう煩わしさを感じる世の中でも、あえて人とつながることを目的とした場所が用意されているって面白いですよね。
 
森永: 癒しの空間ってあまりないじゃないですか。でもここに入ると癒されて帰っていくみたいな、そういうものが街の中にポコポコあるといいかもしれないですね。マッサージにいくような感覚で。
 
望月:あえて空間を残して、ここの空間に入りさえすれば自分を見つめ直したり、誰かとの新しいコミュニケーションがある、といった目的性をつくることができますよね。逆に空間をすべて取り払うならば、AR・MRのようなコンテンツを通して体感できるように展開してもいいですよね。
 
森永:MRは特にそうかもしれないですけど、実際の空にデータが浮かび上がるように調整するとロマンチックですよね。ドームの行く先にはいろんな方向性があるのかなと。最後はコミュニケーションのツールとして部屋に同化したり、空間に同化していくようにいろんな在り方があっていいかなと思います。ドームはそのための通過点としてある。場所に紐づくコミュニケーションがあっていいと思うし、今はどこでもコミュニケーションがとれるモバイルがあって(常にコミュニケーションから逃れられない)、つながりたいときにつながれる場所があるというのがいいですよね。スマホがなくても人とつながれるみたいな。
 
高野:自分の意志で圏外が作れるという感じですよね。
 
森永:そうなると、今の情報過多で誰から何の連絡がくるかわからないってところに対して、答えられるのかなと。
 
高野:このプロジェクトに対して「これからどういう展開を考えているんですか?」と問われたことがあって、「いろんなものが即時にやり取りできるようになって、メールのやり取りが見えてしまったり、写真が出回ってしまったりとか、この技術の先に人の不幸せとなってしまうようなことが待っているのだとしたら、ちょっと一回振り返ってみて、人を幸せにする技術の方向性でコミュニケーションを考えられないかと思いました」と話して、その時に自分の中でも目指す方向が見えたような気がしました。


 

人のコミュニケーションをデザインする


正しいコミュニケーションの在り方について考えても、人によって受け取り方が違ったり、心理的なことを定義するのは難しいです。ですが、そこに『目に見えないものを考え、デザインしていく』面白さがあるなと思いました。
現状では呼気や座面の動き、心拍数から感情の変異を定義していますが、それだけではまだ不十分で、今後もツールを追加したり更新していくことで精度を高めていきたいと思っています。その時に大事にしたいことは、腕や頭に機器を装着したり、そこから抽出された数値データが直接見えたりすることで違和感が介入しないような自然なコミュニケーションとの向き合い方を意識することです。
本来の人と人の自然な向き合い方を原点に立ち返って実現できれば、日常の様々なシーンでコミュニケーションを豊かにできると思います。そんなウェルビーイングな未来を見据えて今後も邁進していきたいと思います。


写真:佐藤英樹/イラスト:伊山由香
望月 美那 プランナー
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