空間と体験の可能性を追求する乃村工藝社のオウンドメディアnomlog(ノムログ)。
ノムログ編集部 “空間と体験”を追求するチーム
“空間と体験”を追求するチーム

子どもたちの知的好奇心とひらめき力をはぐくむ空間づくり。パナソニック クリエイティブミュージアム AkeruE(アケルエ)の空間デザインを語る。

2021/07/19

「ひらめき」をカタチにするミュージアム AkeruE(アケルエ)とは?


2021年4月に東京都江東区のパナソニックセンター東京内にオープンした、「ひらめき」をカタチにするミュージアム AkeruE  (アケルエ)。この名称には、子どもたちが潜在的に持つ知的好奇心の可能性を開ける(アケル)こと、ひらめき(Eureka・ギリシャ語でひらめき)をモノやコトなどのカタチにしていく手助けをしていくこと、という意味が込められています。


アケルエは、これまでになかった新しい場所。「観る、つくる、伝える体験」を通して子どもたちのクリエイティブな力を育む、SDGs*1やSTEAM教育*2をテーマとした探求学習の実践の場となっています。

*1:国際連合が採択した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)のこと 。世界中にある環境問題・差別・貧困・人権問題などの課題を2030年までに解決していくために、17の目標が掲げられている。
*2: Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育」に、Art(芸術)を加えて提唱された教育手法のこと。


このアケルエの空間をデザインしたのが、乃村工藝社のクリエイティブチーム。コンセプトを形にするために、どんな想いや苦労があったのか。デザインを担当した5人のデザイナーに、「アケルエができるまで」の流れと想いを語ってもらいました。


――まず自己紹介から。


中出:中出未来之(なかでみらの) 、入社3年目です。アケルエが、プラン段階から竣工までのすべてに関わった初めてのプロジェクトとなりました。


谷:入社4年目の谷清鳳(たにきよたか) です。幼い頃は物理系や理系の仕事に進みたいと思っていましたが、大学進学前に空間デザインに興味を持ち、方向転換。美大を卒業して、今に至ります。


佐々井:同じく入社4年目の佐々井歩(ささいあゆみ) です。昔から自分と違う価値観に触れることが好きで、仕事をする上では社内外問わず、たくさんコミュニケーションを取ることを大切にしています。


古賀:古賀紗弥佳(こがさやか)です。最近はコミュニケーションスペースのデザインを主なフィールドにしています。


山口:アケルエチーム・リーダーの山口茜(やまぐちあかね)です。プランニングからデザインまで幅広いフェーズでディレクションをしています。

 

リスーピアからアケルエへ

――はじめに、アケルエのある“パナソニックセンター東京”の役割を教えてください。

山口:2002年9月に設立したパナソニックの総合情報発信拠点で、様々なソリューションをお客様に伝えるプロモーションとコミュニケーションの場としてオープンしました。
乃村工藝社は、当時から複数のエリアの内装デザインを担当しています。

谷:センター設立の際には、『同じような規模の複合展示施設と比べて、消費エネルギーを大幅に削減すること』を目標として掲げていたと聞きましたが?

山口:そう、雨水の利用や、ソーラーパネルなどのエネルギー管理システムなどをいち早く導入していました。いまでいうSDGsの考えを、2002年の段階でパナソニックセンター東京はすでに盛り込んでいたということになります。

中出:環境問題に企業として取り組む姿勢はかなり早かったということですね。

山口:その後『日本の子供たちの理数系離れを防ごう。未来の技術者、ものづくりに興味を持つ次世代の子どもを育てよう』という想いのもと、センター内にリスーピアというミュージアムが誕生したんです。

古賀:ミュージアムでありながら、社会貢献でもある。パナソニック創業者の松下幸之助さんの『物をつくるまえに人をつくる』が原点になっているんですよね。



――そのリスーピアがリニューアルすることなり、アケルエが生まれた。  

山口:例えば、STEM教育から、STEAM教育へ。時代の流れが変わってきたことも大きかったようです。『当初の目的であった、理数系に興味を持つ人材育成はいったん役目を終えた。これからはSDGsに代表されるように、ますます予測不可能で、複雑化するさまざまな社会課題に向き合うための創造力ある子どもたちを育てていこう』――その想いからリニューアルに至ったと聞いています。



――パナソニックの皆さんと共に総合プロデュースのロフトワーク さんがアケルエの骨格となるコンセプトをたて、それを空間や展示で具現化したのが乃村工藝社。空間デザインコンセプトをつくる までのプロセスは?

古賀:ロフトワークさんから『これまでのミュージアムはインプットをベースにしたような施設が多い。だからこそ、今回は学びをアウトプットできる新しい場所を作りたい』というテーマを提案されました。その新しい場所では、どんな体験ができるのか――初期から明確にイメージされており、その上で『ノムラさんが自由にデザインしてください』という言葉がありました。

山口:パナソニックさんからは『リスーピアの空間をなるべく活かしてアップサイクルしてほしい』というお話がありました。SDGsの観点からしても、その意見にはチーム全員が納得して。そこはメンバー全員が最初に頭に叩き込んだところです。

佐々井:その後、デザインをつくりあげる過程で、ロフトワークさんと我々チームの間で何度もブレストを繰り返して。

谷:最初の1回だけがリアルに顔を合わせての打ち合わせ。その後はコロナ禍ですべてオンラインミーティングだった。

古賀:そう。すべてオンラインで進行していくというスタイルは全員が初めての体験で……。

山口:ここを訪れる子どもたちが、既成概念にとらわれることなく創造へのモチベーションを高めるためには、どんな空間が適しているのか。まずオンラインで徹底的に話し合いました。

佐々井:『こんな感じだよね、あんな感じだよね』という会話の中から、5つの空間デザインのインナーコンセプトが生まれて。

古賀:よごしていい感、自分でつくれそう感、組みかえられる感、枠にはまらない感、みんなでセッション感。この名前が施設内に記載されているワケではなく、あくまでデザイン上のコンセプトですが、この~~感っていう表現でデザインを進めていくのは、私たちにとっては新しい試みでした。

山口:ブレスト時に出た口語的な言葉をそのまま企画書には使うことって、普段はないものね。

古賀:それを『~~感をコンセプトにしよう』と決められたのは、ロフトワークさんの企画案を読んで『ここは新しい場所なんだ』『枠にハマった考え方は合わない』とチーム全員が感じていたからだと思います。



 

まったく新しいものをつくるため、発想も新しく柔軟に


――アケルエという新しい場所をつくるために、皆さんの発想も柔軟になっていった――。5つのコンセプトについてもう少し詳しく教えてください。

古賀:“よごしていい感”は、綺麗すぎることなく傷つけてもいいと感じられる、子どものアウトプットにブレーキをかけない場所。“自分でつくれそう感”は、どこかで見たことのある 身近な素材や道具を使って『自分でもつくれるかも?』
と思わせる場所。“組みかえられる感”は、 動かせそうで簡単に組み立てられそうな什器を見て、『これとこれを合わせたら、組み替えられるかな?』と考えたくなる場所。“枠にはまらない感”では、枠にはまった考えや使い方を払拭するために、ちょっと面白い“モノ”の使い方をしています。

佐々井:たとえば、太鼓を鉢植えに使ったり、跳び箱をベンチに使ったりしています。

古賀:“みんなでセッション感”は、みんなの意見や作品の集積が見えるようにして、自由に議論や活動ができる雰囲気を作りました。



――すべて壊してつくり変えることはしない、今あるものの再利用を考える。その条件の中でどのようにしてオリジナリティを出そうと考えましたか?

佐々井:これまではゼロの状態から新しくなにかをつくる、という仕事が多かったけど、今回は違う。今あるものをどう使うか。そもそもリスーピアは真っ白な円形の壁が空間を構成していたりと個性が強い空間。そこをどう活かせばいいのか、最初は頭がなかなか切り替わらず……。

谷:それはみんな同じだったから、とにかくとことんチームで話し合ったよね。

佐々井:そう、なんでも自由に話し合えるチームだったことはほんとうに心強かったな。あと、ロフトワークさんには、アイデアを気軽に相談しやすかった。それで段々頭の中が『閃いたことは、とりあえず一度チャレンジしてみよう』と切り替わっていったんです。

谷:そこからは楽しいことが色々あったよね。

佐々井:そうそう。コロナの影響でリスーピアも休館していたので、そこをポジティブに考えて動こうと発想の転換をして。

中出:みんなで休館中の現場に、ペンキ買って持って行きましたよねー。

佐々井:現場で直接色を塗ったもんねー、そこで改めて『この塗料、使ってみよう!』って思ったり。いろんなパーツをアップサイクルするという目線で現場を見直して、『これ、こんな風に使える』『外してここに使おう』と閃いたりと、これまでにない新しい発想が生まれたんです。

谷:奇しくも、アケルエのコンセプトを、先にチームメンバーが体感していたことになります。

佐々井:アケルエ内のそれぞれのエリアサイン(看板)も、『これまでにないものにしよう』と考えました。タオル掛けみたいなデザインに決めて、布のアーティストさんに各エリアのコンセプトをお伝えしてサインを作ってもらいました。あえて布を統一せずに、各エリアの活動内容に紐づいた身近な素材を用いて、エリア特性をどう表現するかをアーティストさんと一緒に考えながら決めていきました。


谷:床のステンシル(木材や布などにデザインを模写する方法のひとつ)も同じく、アーティストさんにお願いしました。通常ならカッティングシートを使うところ、手切りで型紙の文字をくりぬいて、塗装する手法を採用しています。そんなこだわりに、人の手で生み出されたディティールならではの心地よさを感じてもらえたらいいなと願っています。


佐々井:サインにしろ、ステンシル  にしろ、現場で『もっとこういうふうにしたほうがいいかも』と、アーティストさんと私たちで話し合いながらつくりあげたもの。人の手のぬくもり、みたいなものがこの空間にはふさわしいと考え、そういう方法を選びました。


デザイナーとアーティストのコラボレーションで作り上げた、タオル掛けのようなエリアサイン(右上)と
床のステンシル(中央下)


コロナ時代でも、ピンチをチャンスに変えたアケルエチーム。続きは後編で。

パナソニック クリエイティブミュージアム AkeruE(アケルエ)

文:源祥子/ファシリテーター:阿部智佳子/対談写真:山崎圭、鈴木志乃
 
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