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ノムログ編集部 “空間と体験”を追求するチーム
“空間と体験”を追求するチーム

地域の力を集め、地域と共に成長する オーベルジュLOQUAT西伊豆

2021/12/17
オーベルジュLOQUAT西伊豆は、江戸時代から土肥の名主として代々続いた大地主の邸宅である旧鈴木邸を、宿泊設備を備えたレストランに改装した施設です。宿泊客だけでなく土肥を訪れる観光客や地域の人々からも愛される魅力ある空間へと生まれ変わりました。

LOQUAT西伊豆を設立・運営している土肥観光活性化株式会社と、土肥観光活性化株式会社の親会社である株式会社Catalystの社長を兼務されている高野さんとともに、乃村工藝社のデザイナーの小糸と井上、プランナーの二宮、営業担当の平塚が施設のご紹介をしました。

本稿は、乃村工藝社グループの「ソーシャルグッド」なプロジェクトをご紹介するイベント「ソーシャルグッドウィーク 2021」のレポート記事です。

 *「ソーシャルグッド」の詳細はこちら
乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編後編
*「ソーシャルグッドウィーク2021」のレポート記事一覧はこちら


オーベルジュLOQUAT西伊豆


株式会社Catalyst 代表取締役社長 高野由之さん
千葉県生まれ。父は建築士、母は陶芸家という芸術一家に生まれ、大学卒業後、経営コンサルティング会社を経て、政府系地方創生ファンドREVICで地域の経済成長を牽引する事業者をサポート。2015年に、支援する立場から、実際に地域で事業を起こすプレーヤーになるために株式会社Catalystを設立し、LOQUAT西伊豆の創立・運営に携わっている。現在、土肥観光活性化株式会社 代表取締役社長も兼務。


乃村工藝社 クリエイティブ本部 NAU デザイナー 小糸紀夫
東京都練馬区生まれ、大学卒業後、設計事務所などを経て乃村工藝社に入社。所属しているNAUは「ノムラ・アーキテクツ・ユニット」の略で、内装・展示業務が中心の乃村工藝社で建築の部分まで携わった仕事を担うチーム。


乃村工藝社 クリエイティブ本部開発部 デザイナー 井上裕史
岡山県生まれ。父は一級建築士で神職。自身も数年前に神職の資格を取得。大学院卒業後、乃村工藝社に入社し博物館など文化施設、企業PR系の業務を経て、現在は主にホテル・旅館のデザインや地域創生案件を担当。

地域の人たちにも愛されるオーベルジュに



(小糸)
2021年4月にオープンした「LOQUAT西伊豆」は、地域の人たちに長年親しまれてきた歴史的建造物「旧鈴木邸」をオーベルジュとして再生しました。今回のプロジェクトでは、ロゴの制作から乃村工藝社で担当させていただいたので、最初に井上からロゴ開発についてお話します。


土肥名産の白枇杷(びわ)。LOQUATの敷地内にも白枇杷の木がある。LOQUAT西伊豆HPより。


(井上)
施設の名称「LOQUAT(ロクワット)」は、土肥の名産であり象徴でもある「白枇杷」を意味しています。改装前の旧鈴木邸は、何か祝い事などがある度にみんなが集う場所であり、地域の人に慕われる大切なお屋敷でした。そんな歴史的背景を踏まえて、ロゴは枇杷の実のシルエットをモチーフに、人が寄り添って一つの形になるようにデザインし、この施設に人々が集まり長く地域に愛されていくブランドになるよう願いを込めました。


白枇杷の実が寄り添うイメージをデザインしたLOQUAT西伊豆のロゴ。

(小糸)
土肥では、「観光客と地域の距離が離れている」という課題があり、その距離を縮めることが土肥の長期的な発展に不可欠とされていました。乃村工藝社もこの課題の解決策を一緒に考え、そこで出てきたのが「地域の資源を活用する」、「地域の力を集結する」、「新しい血を注ぎ込む」そして「コンテンツをつくる」という4つのキーワードです。


(高野)
事業を行う立場からすると、いま地方は人手が足りず、工事を請け負う工務店さん、食材の仕入先の漁師さんや農家さんもどんどん少なくなっています。我々が地域の人たちに元気を注ぎ込むぐらいの覚悟で当たらないと、事業が成り立たないのがリアルな課題でした。つまり「地域の資源を活用する」ことが結果的に「地域の力を結集する」手段になるのですが、今回は土肥温泉旅館協同組合さんが早くから協力してくださり、地域の様々な職人さん、業者さんが力を貸してくれたので事業を進めることができたと思っています。

(小糸)
高野さんが「地域の力を集結して」とずっとおっしゃっていたので、乃村工藝社でも極力、地元の業者さんと手を組んで取り組むようにしていました。
そして「新しい血を注ぎ込む」という点では「タケル クインディチ」と「SANTi」がオーベルジュとして重要なキーテナントになりましたが、どのような経緯で選択されたのですか。

(高野)
地域にないものをと考え、土肥は和懐石を出す温泉旅館さんが多いので、LOQUATでは伊豆の食材を別の形で表現するイタリア料理を考えていました。
出会いはとても単純で、「タケル クインディチ」は、私が個人的によく行くイタリアンレストランだったんです。無理を承知でお願いしてみたところ、このプロジェクトの考え方に賛同していただくことができました。

もう一つの「GELATO & BAKE SANTi」さんについて。地方には東京のように焼き立てのパンを売っているお店が少なく、土肥にはパン屋さんは1軒もありませんでした。土肥の町に朝、焼き立てのパンの香りが漂ったら…、地域の人たちもLOQUATに足を運んでくれて、生活に彩りが生まれるのではと思い、どうしてもパン屋さんを併設したかったんです。そんななか、ある方が紹介してくれたのが「GELATERIA SANTi」でした。しかし、相談してみると「パン屋はやったことがないけど、今後、パン屋をやりたいと思っている」とのことだったので「では一緒に土肥でパンづくりにチャレンジしましょう!」ということになりました。そのときご馳走になったジェラートがとても美味しかったので、ジェラートもパンと一緒に売ろうということになりました。

 
焼き立てのパンとジェラートは、毎日行列ができるほどの人気。写真は(左)LOQUAT西伊豆ツイッター・(右)(株)Catalyst HPより。
 

地域に必要なものを見つけてコンテンツ化する

(小糸)
そして「コンテンツをつくる」ですが、一般的には短期的に利益を上げようとすると宿泊の部屋数を増やすことを考えると思うのですが、高野社長は長期的な視点からコンテンツの開発を大事にしていました。その理由をお聞かせください。

(高野)
古民家再生事業では、短期的な事業計画を重視して客室をたくさん作り、数年間で利益を生むことを想定した事業になるケースが多いと思います。ただそうすると広がりがなかなか生まれてこない。その町に泊まりにいく理由、その町でもう一泊する理由が生まれません。ですから我々は、ここにどんなコンテンツがあれば、土肥に来る人が増え、土肥で使ってもらうお金が増え、土肥に住む人たちの生活が楽しくなるだろうかと考えました。そこから出発してこの建物をどういう形で改装しようか、どういうコンテンツを盛り込もうかと考えました。

いちばん大きな母屋を客室にすれば何部屋もとれますが、そうせずにここを本格的なイタリアンレストランにしました。蔵があと3棟あるのですが、1つをBARに、残りの2つをそれぞれ1棟貸切の客室にしています。

レストランは40席で2つしかない客室に対しては席数が多いのですが、将来、土肥地区にたくさん残っている素敵な空き家を宿泊施設に改装して、食事をLOQUATのレストランでとっていただくような「まち全体をオーベルジュにする」という開発計画を練っているので大きなキャパシティを持たせています。地域の面的な活性化を広げていく狙いです。


将来、LOQUAT西伊豆のレストランが地域の旅館や民宿などのメインダイニングに!


(小糸)
古くからの温泉旅館がたくさんある地域に新しい宿泊施設ができると、周囲からどう思われるかと心配したのですが、最初から皆さんとても好意的でした。
もともと地域の人たちが集う場所だった旧鈴木邸を宿泊施設にして、地域の人をシャットアウトしてしまうのではなく、レストランやジェラート&ベイクのお店を用意して、誰もが利用できる空間にしたことも受け入れていただけた理由の一つですね。

(高野)
そうですね。土肥はもともと温泉街なので、単純に宿泊施設をつくると、プロ野球に例えれば、今まで12チームだったところに13番目のチームが現れたことになります。ところが、私たちが取り組んだ「LOQUAT」は野球のチームではなくサッカーのチームを目指したのです。競合してしまう形ではなく、いままでこの地域になかったものをつくれば、土肥の観光の魅力がアップするので既存の事業者の方も喜んでくれます。地域に何が必要かを突き詰めて具現化すれば、地域の人も受け入れてくださると思います。

現地からのライブ映像によるオンライン施設見学

(小糸)
では、ここで、西伊豆の現地にいる企画担当の二宮とプロジェクトマネジメント担当の平塚の二人がライブ映像で施設の中を紹介いたします。ソーシャルグッドウイーク会場からは、高野社長と井上が各シーンの解説をいたします。

 
LOQUAT西伊豆から実況中継した二宮(左)と平塚(右)


歴史の重みを感じる母屋への玄関口


(高野)
この旧鈴木邸は、鈴木家が江戸時代から300年近く、代々守り続けてきた家です。17代目になって跡継ぎの男子がいなくなり、長女が静岡鉄道の創業者である川井家に嫁ぎ、以来、静岡鉄道でこの邸宅を所有していましたが、もともと地域の中核となっていた場所なので、地域に活力を生み出す施設にしたいというお話を受けたのが、今回のプロジェクトの始まりでした。


庭園の植栽計画も検討を重ね、伐る木、植える木を選んだ。

(井上)
もとの庭園は、手入れがしやすいように常緑樹が多かったのですが、季節感を出すため、秋に紅葉する落葉樹も導入しました。

 
(左)すでに地元の人気店になっている「GELATO & BAKE SANTi」/(右)すぐに売り切れてしまう「SANTi」の焼き立てパン、一番人気はクロワッサン。

(井上)
母屋に入って右側にジェラートのカウンターがあります。開店前からパンやジェラートを買い求めるお客様の列ができることもあるそうです。


 
母屋の奥はイタリアンレストラン「タケル クインディチ」。天井を抜いて梁を見せ、日本建築が持つ美しさをアピール。


(井上)
古民家再生で難しいのは、もともとの建物の空気感を残しながら、人があっと驚く空間をつくるという、相反する要素をいかに実現するかというところにあります。

(高野)
引き算と足し算をどうバランスさせるかが重要ですね。引き算というのは、その建築が持つ躯体の構造などの美しさを露わにする行為。足し算というのは、そこに現在のデザインを吹き込んでいくことになります。母屋では畳間だった床を下げ、天井を抜いて梁を見せるなど、引き算・足し算に関してはかなりこだわりました。


現場からのライブ映像を観ながら、会場で高野社長と井上が解説



テラス席を用意してにぎわいを演出し庭園の魅力度をアップ


(井上)
芝生だった庭にテラス席を用意し屋外にもにぎわいを演出しました。庭からのアプローチの石には、地元の小松石を採用しています。昔は伊豆石とも呼ばれ江戸城の城壁にも使われているものです。




母屋を囲むように3つの蔵が並ぶ


(井上)
三つある蔵は、「一ノ蔵」、「二ノ蔵」、「三ノ蔵」と名付け、「一ノ蔵」はBARとSPAの機能をもたせています。BARスペースは、もともとの蔵の空間を生かし、バーカウンターと厨房機能の部分だけを用意し、天井と壁が醸し出す独特の空気感を味わえるデザインにしています。


Bar 一ノ蔵:もともとの蔵の天井や壁を活かした空間づくり


(井上)
「二ノ蔵」と「三ノ蔵」は宿泊施設です。「二ノ蔵」は1階建ての蔵で、ワンルームタイプの室内は、スキップフロアの形で奥に寝室、手前をリビングとしています。そして、蔵の奥に大きな露天風呂とリビングとしても使えるテラスを用意しました。露天風呂は、庭との連続性を持たせながら、ルーバーで周囲からの視線を遮りプライバシーを守っています。屋根はかけていないので、晴れた夜は、入浴しながら星空を眺めることができます。


Villa 二ノ蔵:蔵の歴史を色濃く残す一階建ての客室


二ノ蔵の奥には源泉かけ流しの露天風呂とリビングにも使えるテラス


(井上)
「三ノ蔵」は2階建てで、1階はリビング、2階が寝室になっています。吹き抜けの特徴を生かしながら解放感のある空間にしています。寝室には、地元のスコリアという火山噴出物を使っています。屋外の専用テラスには広々とした露天風呂を用意しました。2部屋をそれぞれ個性の異なる設計にしています。

 
Villa三ノ蔵:1階はリビング、2階にある寝室は地元の火山噴出物を用いた意匠


三ノ蔵の専用テラスには源泉かけ流しの大きな露天風呂

「地域」「観光」「事業」の3つを成り立たせる

(小糸)
今回のプロジェクトで乃村工藝社は、拠点整備、設計施工というハード面だけではなくコンテンツづくりなどのソフト面からのプロデュースも手掛け、プロジェクト全体をデザインしました。ハードとソフトがしっかりとつながった中で、両者の壁を超越した仕事ができたと思います。高野社長が今回のプロジェクトでいちばん苦労したのはどんなことでしたか。

(高野)
一つは初期投資が思ったよりもかかったことです。今回は、中小企業庁の「商店街活性化・観光消費創出事業」に採択され補助金をいただけたので助かりました。

もう一つは、レストランのランチやジェラート、パンは毎日売り切れになるほどで、宿泊の予約も順調に入ってきたのですが、レストランのディナーだけが思ったよりも伸びませんでした。しかし、地道に美味しい食事を出していたら、それが評判を呼んで、地元の2軒の旅館から相談を受けました。その相談の内容は「板場の人が高齢化して食事を出すのが大変になったからLOQUATのレストランでディナーをとるようなプランは考えられないだろうか…」ということでした。その話が最近まとまって、旅館にお泊りのお客様が毎日数組、レストランでディナーを楽しんでくださるようになりました。地域と連携していけば、最後には事業にもつながることを実感しました。

(小糸)
最後にこれからのビジョンをお聞かせください。

(高野)
こうした地方創生事業を実際に事業として成立させるには難しい点も多々あります。持続的に事業を行い、地域の雇用も創出し、地域と共に発展していくためには、「地域」「観光」「事業」の三つの要素のバランスをとって、その均衡点をつくり込んでいくプランニング戦略、ノウハウが必要だと思います。地域の人たちと協力しながら、夏祭りイベントやマルシェの企画なども考えています。



株式会社Catalystに関してはこちら
オーベルジュLOQUAT西伊豆公式HPはこちら
オーベルジュLOQUAT西伊豆 乃村工藝社実績に関してはこちら
 


今回ご紹介した事例は、地域との協業はもちろん、それまで地域になかったコンテンツの導入によって、より地域に愛され、地域が活性化し、そして事業が広がっていく好循環を生み出した理想的なモデルケースでした。今後も西伊豆の「まち全体がオーベルジュになっていく」過程に注目していきたいと思います。(ノムログ編集部)

文:岩崎唱/写真:安田佑衣(イベント時)

 
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