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小池 佳保子 空間づくりの調査員
空間づくりの調査員

地元の想いを、紡いでカタチに 千葉県鋸南町活性化プロジェクト

2022/05/10

みなさんは千葉県鋸南町を訪れたことはありますか?
東京湾や三浦半島の自然、歴史などの魅力が眠る鋸南町は、都心近郊であるがゆえの観光施策の難しさや近年の自然災害による被害などの課題を抱えています。
今回は、2021年~2022年にかけて乃村工藝社が、地域活性・災害復興のために強い想いをもって鋸南エリアで事業を営むみなさんと一緒に取り組んだ、観光地再生プロジェクトをご紹介します。

鋸南町との出会い


鋸南町・元名海岸周辺

千葉県鋸南町は、木更津市や館山市の中間に位置する内房の町です。SNSで近年人気の鋸山(のこぎりやま)の南に接し、史跡、海水浴場、新鮮な海産物が味わえる漁港や食堂、温泉、地ビール、人気の道の駅など観光資源を豊富に有しています。

にもかかわらず、このエリアは東京からアクアラインや館山自動車道で日帰り観光圏内であることから、観光客の滞在時間が少なく、地域経済への波及効果が小さい傾向が続いていました。その結果、民宿や土産物店の廃業、公共交通の衰退、豊富な観光資源を繋ぐ観光周遊路線の不足が起こっています。
特に、自動車以外の交通手段の確保が難しく、高速バス駅間の二次・三次交通インフラが縮小され、公共交通での周遊観光は年を追うごとに難しくなり、観光資源が分散している状態です。
 

鋸南町を代表する観光名所「鋸南町・頼朝桜」「鋸山地獄覗き」
 
本プロジェクトは、乃村工藝社が2020年に携わった鴨川市の地方創生イベントで、鋸南町を中心に拠点整備や地域経済の活性に尽力されている豊島まゆみさんと出会ったことからはじまります。

前述の鋸南町が抱える観光振興の課題に加え、令和元年、房総半島への台風被害や新型コロナウイルスの影響でさらに打撃となっていること、地元のために意欲的な活動を続けている事業者が多数おられるものの経済的状況により訴求ができていない状況を知る機会がありました。
このお話を受け、観光庁の補助金*を活用した地域創生プロジェクトをご提案し、計画が進んでいくことになりました。
*2021年度の観光庁「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」https://www.kizonkanko.net/

つながっていく地元の熱意、紡いでいく言葉

鋸南町の現状の整理から、プロジェクトの軸は「自治体の境界をこえて点と点の観光資源を磨き、つなぐこと」「滞在時間の長い新たなコンテンツを開発すること」に定めました。

豊島さんを介して、鋸南町で数々の宿泊施設を手がける株式会社紀伊乃国屋(鋸南町)の蛭田社長をはじめ、エリアの主要な公共交通を支えている日東交通株式会社、鋸山の麓で民泊を経営する株式会社丘の鐘撞社(富津市)、公益財団法人鋸南美術館(富津市)、地ビールを製造のきょなん㈱(鋸南町)と、賛同の輪が広がっていきました。
さらに地域活性化の事業を多数手がけられている続(tsuzuki)の鈴木さんご参画いただき、企画・運営など多方面でご協力いただきました。
こうして、地元の事業者を主役に、私たちがバックステージを整え、支える体制が整いました。
 乃村工藝社は、全体統括、申請から地域活性のコンテンツ企画、一部の施工、プロジェクト終了報告書作成までを担いました。 
 
補助金申請には、様々な準備が必要です。
例えば、各事業者の施設整備や実証実験を組み立ててエリア全体の活性化ストーリーを描く、活性化に向けた課題とKPIを明確にする、収支計画や効果検証計画などです。

まず鋸南町の皆さんの様々な想いや経験、課題や夢を私たちが言葉に紡ぎ、その言葉を鋸南の皆さんがさらに重ね、私たちが企画調整する。
地元側と私たちとで想いや言葉を紡いでいく作業を何度も重ねることを経て、プロジェクトの骨子が完成しました。

観光地再生プロジェクト「癒しの鋸山マイクロツーリズム」始動!

2021年11月、補助金支給が無事認可され、5つの事業者の取り組みが一斉に稼働をはじめます。
まず、計画地は市の境界ではなく、鋸山を軸に観光目線で地域を区分した「鋸南エリア(富津市、鋸南町、南房総市)」としました。
これは、フェリーや高速バスの乗降駅と観光名所を自治体をまたぐ動線一本で繋ぎ、来訪者の回遊性を高めることが目的です。
そして、来訪者がエリア内でゆったり過ごし、鋸南の自然や観光地を充分満喫できるように「癒しのマイクロツーリズム拠点」と名付け、主に以下3点の計画を行いました。

描いたストーリーを実証して、 プロジェクトを第二章へつなげる

私たちが企画・施工・運営に携わった、2つの実証実験をご紹介します。

無料周遊観光バス「じょバス!!」


「じょバス!!」車内、停留所周辺の様子

「じょバス!!」(運行期間:2022年1月4日~2月8日)は、2市1町の自治体を越えて各観光拠点をつなぐ観光周遊バス(2次交通)の実証運行イベントです。
マイカー離れが進む若年層や、ひとり旅でゆったり観光地を巡るシチュエーションを狙った企画で、私たちはイベントのネーミングや女性にも親しみやすいカラーリングのロゴ制作、アートワーク全般も手がけました。
エリア内に設定した8つの停留所を1日9往復、無料運行し、運行期間中にデジタルスタンプラリーやSNSでのフォトコンテストを行い、各停留所からエリア内の回遊をさらに促す施策を行いました。日東交通のバスガイドが同乗し、地域の歴史や名所のガイダンスで各観光拠点へ興味関心をさらに喚起させ、エリアへの再訪客の増加も期待しています。

期間中の総乗降車数は2,091人。乗車後のアンケート(n=218)からは、82.1%の方から本運行のご希望をいただき高い満足度を得ることができました。また、予約者の80%以上が首都圏在住で20~50代層という点から、観光消費力のある層へPRできたと評価しています。さらに、利用者の75%以上が自家用車以外での来訪で、そのうちの約73%が鋸山・日本寺を中心に2~4地点を訪れており、複数地点の観光周遊を誘引するという目標も達成することができました。
新たな視点や気づきとして、「無料であること・バスの乗務員の方のサービス」が非常に好評であったこと、利用者の行動時間帯が9時~17時が中心であったこと、利用者はエリア内の各観光拠点のスタッフや広告から情報収集し周遊していたことがわかりました。

ビーチサウナイベント「海とサウナ」
サウナ後に海をみながら寛げる「ととのいデッキ」、鋸山の伏流水を利用した水風呂とサウナテント(すべてイベント当日の様子)

「海とサウナ」(実施日:2022年2月5日~6日)は、鋸南町・元名海岸のビーチエリア再活性化と冬季の有効活用を、『サウナ』という目的性の高い誘客コンテンツで図った実証イベントです。
ビーチにテントサウナを設け、鋸山の伏流水を使った水風呂や、地元産の木材の焚火、鋸山エリアの食を集めたフードマーケットを併設。鴨川市の地方創生イベントでご一緒した飯田善郎ベンジャミンさんのアートワークが会場各所を彩っています。私たちは企画から空間デザイン・施工、運営、広報、ロゴ制作やネーミングを担当しました。また、コロナウイルス感染症対策を踏まえた運営方法の構築も次回開催にむけて大きな経験となりました。

「海とサウナ」は20~30代女性とサウナへの関心の高い層へアプローチするために、PR・プロモーション施策に力を入れました。
メディア掲載や取材を中心とするPR活動、有名女性サウナ―によるラジオ出演や「#海とサウナ」を活用したInstagramキャンペーンを実施。
結果、サウナを楽しむ若者の様子をキー局や新聞社に取材いただき、その画像がSNSで拡散し、さらに集客や取材問い合わせが発生する連鎖が生まれました。

2日間の開催の総来場者は192名(事前予約制、サウナは人数制限つき)。来場者アンケート(n=85)では、鋸南エリアに始めて来た方が約48%と、観光拠点再生のイベント企画として可能性を感じています。
また、イベントを知るきっかけとして「知人の紹介」「SNS」が上位2位の回答となり、サウナのような強い愛好者がいる領域の誘客において有効な手法であることも確認できました。「コンセプトが練られていた」「何回も参加したいと思った」「ロケ―ションが良かった」など全般的に満足度が高く、有料化に対しても前向きなご意見をいただきました。

 
「じょバス!!」「海とサウナ」のポスター

私たちは、この2つのイベントそれぞれで、利用者アンケート、SNS分析、WEBサイトのアクセス解析などの複数の調査を行い、分析を報告書としてまとめました。

事業者のみなさんからは「コロナ禍だからこそ、⾃然豊かな鋸⼭エリアに初めて来られた⽅も多かった。景観を楽しんでいただけたのは何より良かった」、「鋸⼭エリアととらえて⺠間事業者がもっと連携し、観光客が周遊する楽しみを増やして、エリア全体での来訪客数増・リピート増に繋げたい」、「この事業で地域内外の⼈脈が広がった。もっと知恵を出し合い地域を元気にしていきたい」などの感想もいただきました。

これらの定量的・定性的なフィードバックは地域活性という数字では表しにくい取り組みにおいて、関係者の大きな宝になっています。
エリアとしての一体感を生み出すサービスや、リピートを楽しめるサービスストーリー、夕方に向けた観光のあり方など、次なるチャレンジのヒントを得ました。
今回の実証を通しての学びや課題の整理、データの検証を、鋸南エリアのさらなる地域活性につなげていきます。
 
 
「じょバス!!」報告書より抜粋
 
 
「海とサウナ」報告書より抜粋

主役は地元のみなさん できないをカタチにする伴走支援

「じょバス!!」に乗車した際のことです。バスは片道40分ほどのルートですが、バスガイドの皆さんからは名所はもちろんのこと、地元の歴史的背景、見逃してしまいそうな小さな史跡さえ丁寧につぶさに教えていただき、その姿から、地域への愛情や誇りが言葉の力となり伝わってきました。

ステージの上に立つ主役は地元の方。私たちはプロとして、その演出を企画し、舞台装置をつくり、体験したお客様が気持ちよく帰っていただくまでを見送り、次回に向けて検証する。
プロジェクトメンバーの一人が語った「地元の方が今まで想い描いていた、できないと思っていたものごとをカタチに」という言葉に、私たちが本プロジェクトに携わった意義が集約されていると心に残っています。

鋸南町のプロジェクトは、次のフェーズにむけて動き出しています。プロジェクトメンバー一同、鋭意企画中です。続報をどうぞご期待ください。
 

小池 佳保子 空間づくりの調査員
空間づくりの調査員
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