空間と体験の可能性を追求する乃村工藝社のオウンドメディアnomlog(ノムログ)。
ノムログ編集部 “空間と体験”を追求するチーム
“空間と体験”を追求するチーム

アートと空間デザインの共鳴で社会を変える―HYATT CENTRIC GINZA TOKYO HERALBONY ART ROOM

2022/06/06
  

2018年1月に開業したハイアット セントリック 銀座 東京は、福祉を起点とした新たな文化を創造する福祉実験ユニット ヘラルボニーと連携し、同ホテル初の取り組みとなるコンセプトルーム  HERALBONY ART ROOM *1を完成させました。ハイアット セントリック 銀座 東京 総支配人の内山渡教さんとヘラルボニー取締役の佐々木春樹さん、空間デザイン・施工協力を行った乃村工藝社デザイナーの吉村峰人の3人に、同社広報部の鈴木志乃がソーシャルグッド*2につながる空間デザインやアートの可能性についてお話しを伺いました。

*1: HERALBONY ART ROOM:期間限定公開(2022年5月2日~7月31日)
*2:ソーシャルグッド:乃村工藝社では、持続可能な社会を実現するため、事業活動を通して幸せなインパクトを生み出す「ソーシャルグッド活動」を推進しています。参考記事:乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編後編


Speakers


左:内山渡教(うちやま ただのり)さん ハイアット セントリック 銀座 東京 総支配人
1998年グランド ハイアット 福岡に入社以来、国内外のハイアットグループのホテルで料飲部門、営業部門、宿泊部門で活躍。数々のハイアットのホテルブランドでの運営を経験してきたキャリアをベースに、2018 年1月に開業したハイアット セントリック 銀座 東京の総支配人に就任。

中央:佐々木春樹(ささき はるき)さん 株式会社ヘラルボニー 取締役
文化服装学院在学中からイッセイミヤケグループのデザイナーズブランドTSUMORI CHISATOにてアシスタントデザイナーとして活躍。卒業後もアパレル業界でキャリアを重ね、ファッションブランドFRAPBOIS(フラボア)のデザイナーを15年勤め、2018年にヘラルボニーに加入、取締役、チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めている。

右:吉村峰人(よしむら みねと) 株式会社乃村工藝社 デザイナー
2007年入社、2010~2019年A.N.D.配属、2020~デザイン1部配属
飲食・物販などの商業全般から、富裕層個人邸など多岐にわたるレジデンス設計を手掛けている。カジュアルから上質でラグジュアリーな表現までライフスタイルに関わる幅広い領域のデザインに携わる。

ハイアット セントリック 銀座 東京
新旧の文化が交差する「銀座」の新しい旅の拠点として、旅に関する優れたアンテナを持ち、常に旅先での新しい発見を追い求め、それを仲間とシェアすることに喜びを感じる“アクティブトラベラー”の限りない探検をサポートします。

ヘラルボニー
「異彩を、放て」をミッションに掲げる福祉実験ユニット。知的障害のあるアーティストたちが生み出すさまざま作品を商品化し、さまざまな形で社会に送り届けることで、この世界を隔てている先入観や常識というボーダーを超越し、福祉を起点に新しい文化を創造しています。

障害のある作家の才能や個性を社会に発信するコンセプトルーム

鈴木:皆さまは、これまでたくさんのメディアの取材を受けていると思いますが、今日は通常の取材では語られないようなバックストーリーもお聞かせいただけるとうれしいなと思います。
初めにハイアット セントリック 銀座 東京(以下HC銀座)さんが、コンセプトルームを手掛けようと思われた経緯やヘラルボニーさんにお声がけをした理由をお聞かせいただけますか。



内山:コロナ禍になって2年以上が経ちますが、昨年あたりから海外のハイアット系列ホテルで、コンセプトルームの成功事例がいくつか出てきました。国内でも競合のホテルさんが、いろいろな形のコラボレーションルームに取り組まれています。私たちも、昨年の夏頃からコンセプトルームに取り組みたいと考えていました。ちょうどその頃、メディアでヘラルボニーさんのことを知りました。ハイアットは、コロナ禍になる前からDE&I*3にフォーカスしているので、僕の中ではコンセプトルームをつくるなら、アニメーションなどのキャラクターのコラボレーションではなくて、もっと社会にアピールできる取り組みにしたいと考えていたので直感的にヘラルボニーさんとコラボレーションしたい!と思い、無理を承知でコンタクトさせていただいたんです。

*3:DE&Iとは社会の多様性(ダイバーシティ)、公正性(エクイティ)や包摂性(インクルージョン)の総称、またはそれらを高める対策のことをDE&Iと呼びます。DE&Iを重視することで、より持続可能な社会を実現していくことができます。

鈴木:佐々木さんは、内山さんからご連絡があったとき、どんな風にお感じになりましたか?



佐々木:当社ではSlackに代表メールが届くようになっているのですが、それを見たとき「HC銀座さんから連絡が来た」とオフィスがオッ!と湧いて、「これはチャンスだね」という話をしました。というのもちょうどヘラルボニーのライフスタイル・カテゴリーをローンチしようとしていたときだったからです。それで私からご返信させていただき、ディスカッションの場を設けていただきました。
最初にこちらのホテルでお会いしてお話しをしているときに、ロビーを見渡すと置いてある椅子が一つひとつ違っていたり、装飾がアート的だったり、多様性をとても意識されていて、僕たちが体現したい世界観ととてもマッチすると思いました。
僕たちは障害のある方が描くアートをいろいろなモノ・コトに落とし込んでいて、椅子などライフスタイル・カテゴリーの商品も用意しています。僕自身もファッションデザイナーをしていて、いろいろなプロダクトをつくってきましたが、この客室を見せていただいたときに、ここのデザインは空間デザインのプロと組んだ方が良いと思い、それで乃村工藝社さんにご相談してご協力をいただくことにしたんです。

鈴木:吉村くんはこのお話が来た時に、二つ返事でOKだったんですよね?



吉村:先輩の山口茜さんから声をかけていただいたんです。昨年のソーシャルグッドウィークのセミナーで山口さんが登壇したセッションをヘラルボニーの方が観ていらして、そこから親交があり、ご相談を受けたそうです。山口さんから「峰人君どう?」ってきかれたので、食い気味で「やりたいです」って答えたら「じゃ、明日打合せね」って(笑)
実は僕、6年前にHC銀座さんのホテルが出来るときのデザインコンペにA.N.D.の一員として参加しているんです。そのコンペは負けてしまったんですが、今担当しているお客様がこのホテルのすぐ近くにあり、打ち合わせでホテルのテラスを利用させていただいてまして、その度に自分の中で何ともいえない思いがあったので、なにかご縁を感じていました。
あと、個人邸宅の仕事はいろいろやっていましたがホテル客室のデザインは手がけたことがなくて、このプロジェクトでレジデンス設計に携わってきた自分の力を発揮できればと思いました。
 

そこから会話が生まれる空間デザイン

鈴木:皆さん、出会うべくして出会ったわけですね。吉村くんは、この空間デザインを考えるとき、どこからイメージを膨らませていったの?

吉村:まずアートからです。ヘラルボニーさんと最初にお話ししたとき、皆さんがアートを説明するときにアーティストさんのバックストーリーを楽しそうに語ってくれるんです。それを聞いていて、一つひとつの作品がとてもハッピーだなと感じました。色とりどりの連続する形がキャンバスを飛び出していくような楽しさ、力強さもすごく感じて。それを滞在するみなさんにも感じていただきたいなと思いました。僕はホテルに宿泊したときにいちばん非日常を感じるのは、部屋に入ったときではなくて、次の日の朝起きたときなんです。いつもとは違うベッドの上で、窓からの朝日を感じたときにいちばん非日常を感じます。その瞬間にヘラルボニーさんのアートのハッピーさを感じて欲しいと思ったので、まず寝室のスケッチを描き始めました。


左:寝室のスケッチ 右:カーペット試作風景。協力社さんのサポートにより想いがカタチになっていく。

鈴木:佐々木さんは、初めてこの部屋に入られたときどんな感想を持ちましたか?

佐々木:今のベッドの話は、最初にお打合せをしたときに吉村さんが熱っぽく語られていて、あ、これを表現したいんだなと伝わってきたので、予算が厳しくてもここだけは絶対に実現させたいと思いました。お話ししながら、このプロジェクトは上手くいくなという感触がありました。上手くいかない場合は話していてストレスを感じたり、本当はあまり良くないと思っていてもそれを言えなかったりすることがあるのですが、今回は出会ったときから素晴らしい流れの中で仕事が進みました。初めてこの部屋に入ったときは、本当にうれしいなと思いました。

鈴木:打合せで、感性が一致したときは本当に気持ちがいいですよね。プロジェクトの中で楽しい瞬間だと思います。吉村くんは、この空間で生まれる会話をイメージしてデザインしていったと聞きましたが。

吉村:この仕事に限らず、すべての仕事に対して、会話が生まれる操作をしたいと思っています。今回は残念ながら実現できなかったのですが、窓ガラスにも、絵の中に数字が隠されたアートを設えたいと考えていました。その理由は、ホテルに来た時ってみんな窓からの景色を自然と眺めますよね、そのときにアートと街が重なって見えて、遠くのビルを見ようとしたら、「あっ、この絵の中に数字隠れてない??」って気づいてこっちにもあっちにもって、会話が始まったりしたら嬉しいなと。しかし、窓ガラスにシートを貼るのは構造上の問題があって工事施工日の前日に中止になりました。
このアートが生み出すだろう、会話のシーンはぜひ空間に残したかったので、急遽壁面側に設える場所を用意し、そこではお子さまとの会話が生まれるように低い位置にもアートを飾りました。

お互いの心が共鳴して生まれたアイデア

吉村:それと、HC銀座さんの各客室に置いてあるメモパッドにはグラフィックが印刷されていて、そのガイドどおりに折ると紙ヒコーキができるんです。そこに遊び心を感じました。せっかくHC銀座さんとコラボするのだから、壁面アートも折紙を折るように陰影をつけて飾らせてもらいました。そこからまた会話が生まれないかなと思い、その仕掛けについて佐々木さんにお話したら「折り紙という作品を描いているアーティストがいるので、そのアートをつかってつくりましょう」ということになって、本当に2、3日でつくってきてくださいました。しかも、紙ヒコーキを折るとそこにヘラルボニーの松田兄弟*4のメッセージが現れて、宿泊客へのウェルカムプレゼントになっていました。これってお金をかけたからできたって話ではありませんよね。

*4:松田兄弟ヘラルボニー両代表、松田崇弥・文登さん

鈴木:なんだか、セッションをしているみたいですね。



吉村:HC銀座の皆さんも、今までのルールに捉われずにみんなが協力してくださって、それはヘラルボニーさんの理念にみんなが引き寄せられていったということもあるし、掲げているコンセプトの魅力もあったのだと思います。

鈴木:なんでしょうね。磁場、みたいなものがある。

内山:ヘラルボニーさんとのコラボレーションは僕が言い出したことなんですが、スタッフみんなが頑張ってくれて、チームがしっかりドライブしてくれたのでこのコンセプトルームが実現できたと思っています。

鈴木:内山さんは、最初にこのお部屋をご覧になってどんな印象を受けましたか。

内山:あの、実は僕、一番初めにこの部屋に宿泊したんです。試泊といって、ゲストをお迎えする前に実際に泊まっていろいろなことを確認する必要があるんです。吉村さんがさっきおっしゃっていた、朝、起きたときの感覚が本当に楽しかったです。目覚めたときにベッドからテレビの下までつづいているカーペットを見て、あれここどこだっけ?と。起き出してからもいろいろな場面に刺激があって、とても新鮮で清々しい朝を迎えることができました。もともとHC銀座の客室は一般のライフスタイルホテルのようにエッジの効いたアートワークががんがんと主張してくるようなデザインではないんです。今回のヘラルボニーさんと乃村工藝社さんのデザインは、我々のオリジナルの客室のデザインといい感じでマッチングしていて、違和感はまったくありませんでした。


 

アートが空間デザインを通じて拡張し、歓びの瞬間に

鈴木:一つひとつのアートは個性的なのに、部屋に調和していて無理がない感じですね。先日の内覧会のときにも虹を見た時の歓び、という言葉が話題になりました。

吉村:ホテル、イコール非日常と考えがちなんですけど、もっと日常の延長のような、世界中の人が共通でわかる歓びって何だろうとスタッフと話していて、それは虹じゃないかという結論になって。虹を見たときは誰かにシェアしたくなるし、ヘラルボニーさんのアートの色彩ともマッチする。この部屋に虹が現れたら素敵だね、と考えてガラス棚に透明フィルムにプリントした作品を貼ってアートを通った光が虹のように見えるようにしました。
ヘラルボニーさんは、アーティストの作品を高解像度のデータで保存されているんです。それは万一、アーティストが描くことを止めてもアーカイブに残っている作品で利益を得られるようにされているのですが、高解像度データがあることで様々な素材にプリントすることができるため、実現できました。

佐々木:なるほど。見た瞬間に美しいと感じるし、ヘラルボニーの作品がさらに拡張されて、周りに影響を与えていますね。



内山:日常の歓びから虹というイメージのつながりが本当にいいですね。

鈴木:虹のはかない感じも、過ごす時間が限られているホテルの滞在と親和性が高いと思います。短い滞在時間で歓びを感じるという。

内山:私たちのホテルは、どちらかというと日常の延長を大切にしています。お客様に対して普段着のままで接し、お客様にも普段着のままで来ていただく。そんな中で虹のエピソードはとてもしっくりきますね。これから使わせていただきます(笑)
 

アートやデザインを通じて、みんなの力で社会を変えていく

鈴木:このお部屋にいると、本当にハッピーな気持ちになれて、自分でも世の中を変えることができるんじゃないかっていう自信が湧いてくるんですけど、皆さんはこのコンセプトルームづくりの経験を経て、これから先、どんなことをなさっていきたいですか?



内山:ハイアットでは常に「ケアの精神」を第一にしており、私たちにとってこれまでもこれからも、多様性・包摂性・公平性が重要です。日本では、今まで外国人の社員が在籍することってあまりなかったと思うのですが、ホテル業界ではもう外国人の雇用なしではやっていけなくなっている状況と思います。また私たちのホテルでは、今年の3月8日の国際女性デーをきっかけとして、女性の活躍を応援するミモザカレッジというイベントにも取り組み始めました。今回の取り組みを踏まえて、チームのメンバーにも改めて多様性の重要さを感じてもらえたらと思います。

佐々木:障害者の権利や女性の権利を声高に訴えるのがハードパワーだとしたら、ヘラルボニーがやっていることはソフトパワーで、例えばヘラルボニーのハンカチを持ち歩くことやプロダクトを使うことが障害者とのタッチポイントとなり、そこから認識が芽生えて、変化が生まれて来ると思います。今回、ライフスタイル・カテゴリーをローンチしたのも、家の中のクッションやソファーなどに展開することで、一層そうした意識を浸透させ、社会を変えていくことができるのではないかと考えたからです。
社会の変化を目指してライフスタイル・カテゴリーをつくったという流れがあったので、その中でHC銀座さんとコラボレーションできたことは本当に大きな喜びでした。多様性や包括性の意識が、当たり前のものになるきっかけをつくることができればいいなと思っています。

鈴木:ヘラルボニーさんはよくぞ入口をつくってくださったと思います。何か自分もしたいけど、その入口が見つからない人ってけっこういると思うんです。そのときの一つの入口になる。



佐々木:あくまでも美しいプロダクトがあって、美しいから買っていただいて、その背景にあるストーリーは後追いでもいいと思っています。どうしても障害のある作家のつくったアートということが前面に出がちですが、僕らとしては、自然にプロダクトが入っていき、生活に組み込まれて浸透していくことが大切だと思っています。

鈴木:吉村くんは、このプロジェクトを経験してどう思いましたか?



吉村:今回、強く思ったのは、魅力的な人たちと出会えることがとても大切だなということです。デザインのスキルを上げることはもちろんですが、いろいろな人とつながれるようになっていく。いろいろな人を引き寄せることができる人になる。それが自分にとっての重要な課題だと思いました。
あと今回は、空間コーディネートがメインの仕事でしたが、アートによって場の力が変わり、何かが生まれるということを学べました。

鈴木:ヘラルボニーさんの事業スキームに共創ということを取り入れていることがすごくいいことだと思います。一つの会社ではできない活動が、ヘラルボニーさんがハブになってつながり、大きな活動になっていく!

佐々木:僕らもアーティストのハブであると思っていますし、エージェントであるとも思っています。企業様とのハブとなりつつ、社会に発信していくクリエイティブ集団と名乗っているのですが、そうしたクリエイティブも含めて発信をしていくことが僕らの良さだと思っています。自発的に何かをするだけではなく、様々な企業様とセッションをしながら社会に発信していくことが大切ですね。

鈴木:多様性を発信するときも、まずヘラルボニーさん自身が多様性をどんどん受け入れていき、他社を巻き込んでいく。それは、私たち自身もマインドセットが必要な、「できそうで、できていないこと」ですね。多様性や包括性は、これからの企業の在り方として一つの重要なテーマです。個人の立場でも、どれだけ自分をオープンにしていき、たくさんの人とつながっていけるかということが大事ですね。
まさにアートと空間デザインを通じたソーシャルグッドな事例だと感じました。今日は、皆さまどうもありがとうございました。

適切な感染防止対策を講じたうえで取材を行いました。
文:岩崎唱/写真:安田佑衣

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