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畑江 輝 想いを紡ぐプランナー
想いを紡ぐプランナー

演劇と、その空間 | “演劇”による地域活性 

2019/12/06
みなさんは、普段演劇を観にいきますか?


ここ数年、建築・都市の分野では“演劇”というテーマが多く取り上げられるようになりました。

例えば、建築や都市のプランニングにおいて、演劇の考え方を取り入れる事例や、
実際に演劇祭によって集客し、地域活性を行う事例などがあります。 


“演劇”はもともと、古代ギリシアの宗教行事がはじまりであり、上演される戯曲を観に市民がひとつの場所に集い、その作品を通じて議論を交わす場として存在していたとされています。


インターネットが普及し、リアルな場での対話が改めて重要視されている現代において、
この“演劇”という存在が再び注目されている理由がここにあるような気がします。


今回は、過疎化が進んだ小さな村がこの“演劇”の力によって、
海外からも人が集まる地域に変わった事例をご紹介します。

 

「演劇の聖地」と呼ばれるようになった、富山県利賀村

富山市内から車で1時間ほど山を登った先に、住民500人の小さな村「利賀村(とがむら)」があります。
面積の9割以上は山などの自然に囲まれており、かつては過疎化が問題となっていました。


                                            *画像データ:劇団SCOT様よりご提供 / 利賀村 利賀芸術公園


そんな地が、
日本を代表する演出家の活動によって、世界から演劇人が集まる地に変わっていきました。
今では、国際的にも評価され「演劇の聖地」として親しまれています。

「演劇の聖地」になるまでの取り組み

 簡単にポイントを3つご紹介します。

1:世界に誇る日本の演出家が主宰する劇団の拠点づくり

1976年世界に誇る日本の演出家 鈴木忠志氏という方が主宰する劇団の拠点として利賀村が選ばれ、「劇団SCOT(Suzuki Company of Toga)」として活動するために、劇場や稽古場など必要な施設を整えていきました。

 

2 演劇人を育成するための体制づくり

鈴木氏が創出した俳優のためのトレーニング・プログラムやコンクールなど、
演劇人を育てるためのプログラムを実施したり、200名が泊まれる宿泊所を整えたりすることで、
世界からも鈴木氏の精神が宿った演劇を学びに来る人びとを受け入れる体制ができていきました。

 

3 国際的な舞台芸術祭の開催と多言語上演

劇団SCOTの活動方針に「国際的な活動をする団体」としていることもあり、多言語を扱った演目を多数上演しています。
また、国際的な演劇祭を開催することで世界の演劇人が集い、交流する場所となっていきました。

簡単にではありますが、
これらの取り組みによって利賀村が「演劇の聖地」となっていったようです。

そして、
今年は、この地で「シアター・オリンピックス(Theatre Olympics)」という、国際舞台芸術祭が開催されました。

*劇団SCOT HP   https://www.scot-suzukicompany.com/scot.php
*富山県利賀芸術公園 HP   http://www.togapk.net/introduction.php

 

利賀村の知名度をさらに上げた、国際芸術祭シアター・オリンピックス

国際芸術祭シアター・オリンピックス(Theatre Olympics)とは

先ほどご紹介した鈴木氏をはじめとする
世界各国で活躍する演出家・劇作家により、1994年にギリシアのアテネにおいて創設された
国際的な舞台芸術祭です。

今年は、創設から9回目で、日本とロシアの同時開催となっており、
日本では富山県の利賀と黒部が選ばれました。

雑誌やWebメディアなどでも取り上げられており、
演劇人だけではなく、芸術分野に興味があるひとたちを集める機会となりました。

わたしも、実際にシアター・オリンピックスに足を運んできたので、そこで感じた魅力をお伝えします!


 

国際芸術祭で実際に足を運び感じた、利賀村の魅力

個性あふれる“6つの劇場” 

自然に囲まれた中に、珍しい6つの劇場があります。

・「利賀山房」:合掌造りの民家を改装した劇場
・「野外劇場」:ギリシア風半円型の劇場
・「岩舞台」:舞台を囲むように岩が配置されている劇場
・「利賀大山房」:体育館を改装した劇場    
・「新利賀山房」:日本最大規模の合掌造りを近代風に改装した劇場
・「利賀創造交流館」:コンクリート造で内部が真っ黒に塗装された劇場


普段、目にする箱型の劇場とは一味も二味も違う劇場が集結しており、
演劇の聖地と呼ばれるに相応しい場所でした。


   
                            神聖な雰囲気を持つ、ギリシア風「野外劇場」
 

ちなみに、
「利賀山房」、「野外劇場」、「新利賀山房」は、建築家 磯崎新氏が設計しています。


磯崎氏は利賀村の劇場設計に関するインタビューの中で、
「舞台の設計は、ひとつの特徴を徹底させてあるほどいいということだった。劇団が個性的であればあるほど、独特の舞台空間のなかに奥深くすみつくことのできることがわかった。」と述べています。
*富山県利賀芸術公園 HP   http://www.togapk.net/people/detail.php?person_id=2


現代の劇場は、建物の中に入った箱型のどこも同じような劇場がほとんどですが、
ここ利賀村に存在する個性的な劇場は、
劇団の個性や上演する作品の良さを引き出すのに重要な役割を持っているのかもしれません。
 

建物内ではなく、屋外空間でみる演劇


わたしは「野外劇場」と「岩舞台」で公演を観たのですが、
普段の劇場でみる体験とは異なる、ちょっと新鮮な感覚を味わうことができました。

「野外劇場」

背面に池と山が広がる半円形の舞台とそれを囲む扇上の客席(テアトロン)で構成される劇場。

                                                      野外劇場の様子          

紀元前5世紀頃に設立されたとする、
古代のギリシアの演劇は、野外劇場で舞台装置を用いずに行われていました。

この利賀村の「野外劇場」は、古代ギリシアの劇場の原型に限りなく近いかたちで再現されており、
利賀の自然の中に溶け込んでいます。



劇場に来た人を歓迎する、虫の声。

上演中にも関わらずぽつぽつと落ちる、雨の音。

舞台の背後にどっしりとそびえたつ、利賀の山。

大きな利賀の大自然が映り込む、舞台奥の池。


自然と演劇が一体となり、
偶然が重なり合うことで、
その時、その場所でしか味わうことのできない、作品を鑑賞することができるのです。


ちなみに、ここで見た戯曲は『トロイアの女』というトロイア戦争を題材にした作品で、
大がかりな装置としての舞台美術は特になく、靴と布をアイテムとして用いた舞台美術でした。

                                                  『トロイアの女』上演の様子                     

「生」と「死」をテーマとして扱うこの作品が、
自然の中で、人工的な舞台装置を極力排除したかたちで上演されることで、
より人間の生々しさみたいなものを感じる演出となっていました。


古代ギリシアの人たちは、こんな感じで舞台を観ていたのかと、、、
なんだかほんの少しだけ古代の人と通じ合えた気がして、不思議な気持ちになりました。
 

「岩舞台」

野外の小さな劇場で、舞台と客席から岩がむき出しになっている劇場。

                                                      岩舞台の様子  

                         
ここで鑑賞したのは『2016年、今日』という作品で、SF要素の入った作品でした。


映像演出を用いることによって、
過去や未来を行き来したり、
様々な場所を行き来することを可能にする演出が用いられていました。

また、
映像と連動させながら、後ろの広場から車を使って役者が登場したり、
宇宙船に見立てたドローンが客席上を浮遊したり、と
屋外空間ならではの演出がなされていたことが新鮮でした。


                                                  『2016年、今日』上演の様子             

高揚感と余韻をつくる都心から400km(4時間半)の移動距離 


都心からのアクセスも悪く
特別な理由がなければ、行く機会がほとんどないであろう小さな村に演劇を観にいく。

このことは、
普段、都心で演劇をみるときとは異なる特別な感覚を味合わせてくれました。

新幹線と車の窓から見える景色がグラデーションのように変化していき、
行きは、「どんな世界なのだろう」と高揚感を高め、
帰りは、「あんな世界があったのか」と余韻に浸る、

演目をみている時だけではなく、
「利賀村」までの移動があることでより一層、
演劇がみせてくれる世界観にどっぷり浸かることができました。


 

“演劇の力”による空間活性

演劇は、観た人を非日常の世界に連れて行ってくれるだけでなく、
そこでみた作品がその人の日常に少し重なり、
ちょっとした心の変化をもたらしてくれる可能性があります。


映画やネットでみる映像とは違い、
役者である生身の人間がその場で生み出すリアルを、
同じ時間、同じ空間で観客も一緒に共有し、
ともに創りあげることで
その場でしか得られることのできない特別な体験になるのです。


利賀村の事例は、「聖地化」「珍しい劇場」「立地」によって、
さらに「その場限りの特別感」「高揚と余韻」をつくっていました。


インターネットが普及した現代において、
芸術作品は複製することで、
端末さえあれば、いつでも、誰でも、何度でも、みることができる世の中になってきました。


ただ、演劇を観ると「生」「リアル」の大切さというのを感じます。


この“演劇”という同じ時間と場所を共有し、新たな議論を生み出すトリガーとなる存在によって、
現代における空間の活性化が行われていく事例がこれからも増えていくかもしれません。

 

■イベント概要
*既に会期は終了しています。
第9回シアター・オリンピックスの開催概要
 芸術監督 鈴木忠志氏 
 企画   シアター・オリンピックス国際委員会
 主催   (公財)舞台芸術財団演劇人会議、
      シアター・オリンピックス2019実行委員会、
      文化庁、富山県、SCOT
 共催   国際交流基金アジアセンター、南砺市、黒部市、
      (公財)富山県文化振興財団
 日程   2019年8月23日(金)~9月23日(月)
 会場   利賀・富山県利賀芸術公園
      黒部・宇奈月国際会館「セレネ」、前沢ガーデン野外ステージ
 企画事業 30作品を上演 (他、シンポジウム、ワークショップ等を実施)
Theatre Olympics HP     https://www.theatre-oly.org/about/

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