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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
下國 由貴 Glo-calプランナー
Glo-calプランナー

熱血学芸員と交わす「展示ってなに?」

2020/04/03
「いま、そしてこれからの空間づくりが持つ可能性」をテーマに、
様々な先駆者・挑戦者にインタビューを行う対談企画。
今回のテーマは「学芸員」と「空間プロデュースプランナー」、
それぞれの立場から見る「展示づくり」についてです。

 
博物館・美術館で働くには…を調べると、まず「学芸員」という仕事を知ります。
ミュージアムや行政機関において、資源を調査・研究し、広く伝えるお仕事です。
さらに、展示に特化したり、デザインで関わりたい…と調べると、私たちのような空間プロデュース
会社やデザイン会社を見つけることができると思います。

                                         
学芸員と空間プロデュースプランナー
(展示だけに特化する時は「展示プランナー」という呼称にもなります)に、どんな違いがあるのか?
それぞれの立場から博物館という空間への関わり方を考えます。

今回はどっぷり深~く歴史のプロにお話を伺いました。熱く3時間を超えた対談のまとめです!
 

考古学研究員の成果は「発掘・研究」、
学芸員の成果は「研究から展示」まで丸ごと!
展示プランナーの成果は「売れる企画をつくる自分自身」


下國:
今日は奈良からお越しいただき、ありがとうございます。
次に対談するなら中川さんにお願いしたい!と狙っていました(笑)
まずは、中川さんのことをご紹介させてください。

中川:
現在は奈良国立博物館で博物館学芸員をしています。
前任地の奈良文化財研究所(以降「奈文研」と略)で働き始めたときは「学芸員」ではなく
「研究員」でした。

奈文研に入所して6年間は発掘が主な業務で、その後、展示業務で6年間。計12年間勤めました。
展示をしている人=学芸員だと思われる方も多いですが、当時は「研究員」という職種です。
ちなみに、発掘をしている人の9割は考古学者ではなく、都道府県や市町村に努める公務員です。

中川あや
奈良国立博物館 学芸部列品室長・学芸員。
二人の小学生のお子さんを持つママながら、金属工芸史の研究と所属館での展示業務で活躍。
担当する企画展では、斬新な切り口と展示の工夫で、開催のたびに弊社展示プランナーたちが注目している。


下國:
発掘=考古学者というイメージですが、公務員なんですね!
インディージョーンズとか…冒険家とかもっと博打的な職業だと思っていました。


中川:
確かに発掘に携わる人間は、感性を磨くことがめちゃくちゃ重要!
土を見極める目、限られた工期での段取り、費用想定など、限られた条件下で成果を出すためにも
勘は必要です。

考古学は様々な学問の中でも特殊で、プロとアマがとても曖昧。
まず、研究員や学芸員でなくても研究成果を発信することができます。
市役所職員の文化財課の方が「研究者」として論文を書くこともありますよ。


博物館に所属する学芸員は、業務時間は学芸業務をしていて、研究や展示だけでなく、
運営のために様々なことを担っています。
研究は業務時間内では足りないので、プライベートな時間で研究・論文作成などをしています。

乃村工藝社さんのようにクリエイティブな仕事も似たような感じではないですか?

下國:
参考になる展示や施設を見に行くなど、頭の中に仕事のことがありながら行動している、という意味では
確かにオンとオフの区別は無いですね~。

中川さんの研究や論文に当たるものは、
私たちにとって「展示を考える・プランをクライアントに伝える・つくる」ものですが、
これらの成果物はプランを伝える作業の一環であって、大事なのは
それらを生み出す知見と売れる企画を生む“自分づくり”だと思っています。
“自分をクリエイトする”と言っていいのかな。


 

                                                        (PHOTO by Hideki Sato)

 
                                                             (PHOTO by Hideki Sato)
      実は今回、私だけでなくもう一人のプランナーも交えての3人対談。それぞれバックボーンが全く異なるため、多様な見方での対談となりました。

     (左)乃村工藝社プランナー/堀井麻央 (中央)中川あやさん (右)乃村工藝社プランナー/下國由貴         (PHOTO by Hideki Sato)

※考古学の学芸員という仕事については、実はこの後、理学系の大学院卒という経歴を持ち、
 自然博物館や科学館の展示プランニングを担う堀井さんに深堀り対談して頂きました。堀井さんのノムログ執筆に期待‼


 

学芸員がつくる企画展示と
空間プロデュース会社が出番の展示ってちょっと違うかも

中川:
奈文研の時は、自分たちで企画から施工まで行うハンドメイドな展示でした。
担当者一人で展示プランを組み立てて、施工業者に制作を発注。
図録は、構成や紙面づくりは自分たちでつくって、業者には印刷してもらうだけ。
“グラフィックデザインができる”“イラストが描ける”といったスキルがあるアルバイトさんを
雇用していました。


下國:
地方に行けば行くほど展示は手づくりですよね。
学芸員さんや施設の運営者さんの想いがダイレクトに表れた“らしさ”が出ていて、ほんわかします。
施設をリニューアルしたいというご依頼がある時に、そういう“想い”や“らしさ”がコンセプトをつくる
核になります。


中川:
奈良国立博物館(以降「奈良博」と略)は規模が大きいので展示づくりの雰囲気はまた違ってきます。
ある程度学芸員が学術的な方針を示し、以降は展示会社にプランニングしてもらいます。
全然違うアイディアが出てくるので面白いですね。


下國:
展示づくりには、展示品の理解を深めるための解説パネルがありますよね。
中川さんも原稿は書かれますか?

中川:
書く書く!めっちゃ書きます。
(学芸員の中には)文章を書かれない方もいますし、書きすぎる人もいます。
文章が多すぎたり、表現が難しすぎたり…来館者に読んでもらう、理解を深めてもらうことを考える
必要があるので学芸員の意識改革は必要だと感じています。


昔の図録づくりでは、A4の紙に手書きで割り付けし、写真もいちいちコピーして貼りつけたり、
剥がしたりしていました。
今はIllustratorやInDesignといったデザインソフトやパワーポイントでも入稿ができるので
文字の流し込みや紙面づくりもずいぶん楽になりました。
でも大部分の人は、まだまだアナログ(笑)


下國:
学芸員の就職口が少なかったり、展示づくりの会社があることを知って、弊社のような展示会社を
目指したり、転職で来られる方もいますよ。
私も学生時代は、博物館で恐竜やミイラの展示は学芸員が全て企画・設置していると思っていました。
もちろん学芸員だけで開催している展示はたくさんありありますが、
博物館自体を建てるときや、展示室を設えからリニューアルする時は空間を設計する必要があるので、
私たちのような展示プランナー/空間プロデュース会社がお手伝いさせていただくような大きな
プロジェクトになりますよね。


 

敷居の高い仏教美術との距離を縮めたい。コンセプトは「ウェルカム」

下國:
中川さんが昨夏に手掛けた企画展をご紹介しますね。


 
奈良国立博物館 企画展「いのりの世界のどうぶつえん」2019年7月13日(土)~9月8日(日)
※本企画展はすでに終了しています。
仏教美術の中から、動物や想像上の生き物を表し、描いた作品を集めて紹介する夏休み企画展。
「どうぶつたち」はなぜ、仏や神の世界にさかんに登場するのか、その秘密に迫ります。
また、日本で仏教美術が本格的に生み出される以前の、
くらしの中のいのりに関わる動物造形も合わせて紹介する、
お子様から大人まで、わくわくしながら鑑賞していただける様々な工夫が満載。


いのりの世界のどうぶつえん|奈良国立博物館|奈良県観光[公式サイト ...

 


下國:
夏休み直前の7月に拝見しました。
国立博物館の展示というと、お宝をじっと鑑賞する、ありがたい時間というイメージですが、
この企画展は意図的に作品の見方を区切った展示ストーリーでしたね。

展示ってたくさん見ると、今日どれ見たっけ?と記憶があいまいになりがちですが…
「どうぶつ」という切り口とテーマ設定に基づいた展示物のセレクトが絶妙でどれも記憶に残る
ものでした。
この企画展で担った役割、コンセプトや目標を教えてください。

中川:
役割は企画展全体の主担当者です。夏休み向けの企画提案に手を挙げて立候補しました。
突然ですが、
「七七忌(しちしちき)」って何のことか分かりますか?

下國:
すみません…学生時代に仏教美術を学んでいたのに全然分かりません!(笑)

中川:
答えは仏教における重要な法要の「四十九日」のことです。7×7、つまり49日という意味です。
格式高い展示鑑賞はもちろん非日常的な体験ができて、素晴らしいです。
ただし、解説パネルにも言葉の説明が無く、難しい言葉や用語が書かれていることがあります。
正直、研究者の私でも、異分野の解説パネルの中には読んでも分からないものがありました。
知らないことが恥ずかしく、拒否されている気がしました。

さらに言うと、他言語表記では「四十九日」ですら万国共通認識では無いため、説明が必要になります。


敷居の高い仏教美術との距離を縮める。あなたは歓迎されている。
いま、あなたの目の前にある作品のすべてを知ってもらうことではなく、共感してもらえるフレーズを
探すことを第一に考えました。なので、学術的な情報はズバッと切りました。
コンセプトは
「ウェルカム」です。

下國:
学術情報をズバッと切る…なかなか実現するのが難しいことですよね。

展示とは学びがあって然るべき、という枠を超えて、見えた結果はいかがでしたか?

中川:
企画展の開催中、何度も会場に足を運んで、来館者の様子を窺っていました。

来館者に対面でのアンケートもさせていただきまして…
体験コーナーに滞留しているファミリー、単独で鑑賞されている大人、海外からの来館者に聞くと、
「これまで奈良博に3回以上来たことがある」という方にも高評価でした。

常連の来館者に好評だったのが嬉しかったです。

下國:
新しい試みをしたのに、常連の方に「ふだんの展示とは違う」と離れられてしまうのは、
企画展主担当者としては困りますよね。また挑戦しづらくもなりますし。


中川:
展示物を身近に感じることと、内容が薄いと感じるのは違うと実感しました。
展示企画者がコンセプトをしっかり持って何を伝えたいかを示せば、
ふだんとは違っても元々鑑賞好きの方には響いたのかなと。


下國:
あ~それは分かります。
私もわりと「もっと自由な伝え方があっても良いんじゃないか?
企画を尖らせて、今回こういう見せ方が特徴・個性です」てしても良いんじゃないかと。

ここまで熱いお話を頂いておきながらですが…中川さんは展示好きですか?展示づくりが好きですか?


中川:
見るのも作るのも好き!
展示の仕事はとても魅力的で、体が二つあれば乃村工藝社さんでも働きたい(笑)

自分の根っこに世の中のことをとにかく知りたいという気持ちがあって、
ただ知りたいというだけでなく、心を動かされながら理解したい。
そのために「モノ」があることが大事だと思います。
二次元的な情報だけでなく、モノがあることで、心が揺さぶられますね。


でも展示づくりに携わった身として、悩ましかったことがありました。
SNSでの評判を調べたら、「子供向けなのに国宝・重文がいっぱい出ている」と
美術好きの方々から「好意的な」コメントが多かったんです。
でも、それって

展示自体ではなくて、モノの価値(しかも近代に付された価値)をありがたがっているだけ…?

ショックでした。モノの格が高ければ来館者満足度が高いのか?
ストーリーや構成に心を揺さぶられる人はどれだけいるのか?必要ないのか?と。

下國:
確かに、良いものがあればストーリーなんてお構いなし!という展示もありますよね。
それさえ見れば満足という美術鑑賞に近い「あるある」ですね。
この件は、話すとかなり深みにハマりますし面白いので、また次回にしましょうか!(笑)

会場入り口(提供:奈良国立博物館)

会場入り口の他には、博物館エントランスでフォトスポットブースが設置されていました。キャラクターたちがとても愛くるしい!
 



館内の撮影禁止だったため、帰りの新幹線で描いた「ゆる会場レポート」

ゆるキャラ発見!かわいい。。(しかまろくん 所属:公益社団法人奈良市観光協会)
 

展示を底上げするのが展示プランナー、
伝えたい事実・情報は学芸員がしっかり責任を持って伝えるべき


下國:
実は中川さんは、奈文研にいらっしゃった頃に弊社プランナーたちと展示づくりをされていましたよね。

学芸員だけでつくる展示と外部の展示プランナーが入る展示の違いや良さはありましたか?
※「平城京いざない館」…国営平城宮跡歴史公園に整備された朱雀門ひろば内に建つガイダンス施設。
空間は大きく3部構成で、ゾーンごとに切り口を変え、五感を通して特別性を印象づけることで現地での感動につなぐ展示となっている。
2018年オープン。


中川:
私は展示にすごく興味があり、より良くしたいと思っていたので、同じように展示に対して意識が高い
プランナーさんに話し相手になってもらえて、とても助かりました。
ただ、平城京いざない館は施主と企画提案する我々とが別組織だったので、プランナーさんが存分に
はじけていただけなかった印象があります(笑)
せっかく外部の展示プランナーさんとアイディアをぶつけられる機会だったのに色々残念でしたね。

でも、展示のプロであるプランナーがいるとデザインの底上げができる、と思いました。
展示で喜怒哀楽を動かしてくれるもの、居心地の良いものにするためには「プランナー」が欠かせないと思います。

下國:
私たち展示をつくるプランナー/デザイナーは100%ではないですが、その場所・モノ・コトについて
かなり勉強して臨みます。
まず基礎知識を持っていないと、学芸員や担当者が伝えたいことが何なのか、どこがポイントなのかが
理解できないからです。
それをさらにかみ砕いて、来館者へ伝わりやすくストーリーや見せ方を企画・デザインするのが、
展示プランナーや展示デザイナーの役割だと思っています。


展示プランナーはどんな人であってほしいですか?

中川:
個人的には、プランナーさんには勉強しないで来てもらいたい!

知ることで、違う角度からの見方が減ってしまうのがもったいないです。
自分たちには無い視点、感性でぶつかってきて欲しいというのが、個人的な希望です。
伝えたい事実・情報は、学芸員がしっかり責任を持ってプランナーさんにお示しするのが、
展示づくりでの役割だと思っています。
そもそも学芸員は、自分が担当するモノ・コトに愛を持っていると思うんです。

自分が興味を持って、収集・保管・展示屋調査研究に努めているものですから。

いては欲しいけど、外部組織のプランナーさんだけで展示をつくってもらうというのもかなり怖い。
作品への最大の理解者がいないと、すごく心配になります。
学芸員は、何があってもそれを守る!というのが根っこにあるから、
逆に保管、陳列に偏りすぎている部分がありますけどね(笑)


下國:
事実や情報をそのまま垂れ流すのでは、ただの研究発表の展示。
そこに我々はいらないよな~と。

伝えたいことや見せたいことを最大限表現するためには、プランナーも勉強した方が良くないですか?
もちろん学芸員さんのレベルには到達できませんが、中川さんが展示づくりで見て欲しい・感じて欲しい
ポイントを絞ったように、「ここが面白いポイントだ!」「ね、美しいでしょう?」と問いかけや
共感を生むための新しい視点づくりには、私たち自身も「へー!」「なんでだろう?」
「面白いな~」と思った方が、表現・創造が高まると思いますよ!



この後、中川さんとは、「将来つくりたい、究極の展示とは?」で盛り上がりました。
が、すでにここまでお読みいただくのに、だいぶ画面をスクロール頂いてると思うので…またどこかで!

                                                           (PHOTO by Hideki Sato)
一緒に展示づくりをするので、お客さまであり、同志のような関係にもなるのが学芸員と展示プランナー。
より良い展示をつくるために、熱く持論を戦わせることも共感や学び合うこともたくさんあります




【お知らせ】
熱い学芸員 中川さんが手掛ける企画展第2弾!

御大典記念 特別展「よみがえる正倉院宝物-再現模造にみる天平の技-」

令和2年4月18日~6月14日の期間で開催予定。
(昨今の情勢に伴い、開催日時が変更される場合があります。詳しくは奈良国立博物館のホームページをご覧ください)

※新型コロナウイルス感染拡大に伴い開幕を延期していた本展は、
展覧会準備を予定どおりに行うことが不可能となったため、奈良国立博物館の会期を以下に変更されました。
(2020.7.7追記)

会期: 令和2年7月4日(土)ー 9月6日(日)

1300年近くという長い時代を経て今日にいたる正倉院宝物は、きわめて脆弱であるため、
毎年秋に奈良で開催される「正倉院展」で一部が展覧される以外はほとんど公開されてきませんでした。
正倉院宝物の本格的な模造製作は、明治時代に奈良・東大寺で開催された奈良博覧会を機に始められました。
当初、模造製作は修理と一体の事業として取り組まれましたが、
昭和 47年(1972)からは宝物を管理する宮内庁正倉院事務所によって
宝物の材料や技法、構造の忠実な再現に重点をおいた模造製作がおこなわれるようになります。
本展は、これまでに製作された数百点におよぶ再現模造作品のなかから、
選りすぐりの逸品を一堂に集めて公開するものです。
再現された天平の美と技に触れていただくとともに、
日本の伝統技術を継承することの意義も感じていただけます。

https://www.narahaku.go.jp/exhibition/2020toku/homotsu/homotsu_index.html


※ご注意
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中川あやさん、第2回ゲストとしてのご登場ありがとうございました!!
第3回のインタビュー対談はどなたにお会いできるのか…お楽しみに。

      
                                              (PHOTO by Hideki Sato)
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