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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
堀井 麻央 科学プランナー
科学プランナー

“学芸員”って、何する人? 後編

2020/05/12

「いま、そしてこれからの空間づくりが持つ可能性」をテーマに
様々な先駆者・挑戦者にインタビューを行う対談企画
今回のテーマは「学芸員」と「空間プロデュースプランナー」
2本目となる本記事では、学芸員の仕事について、より深く掘り下げます


様々な展示・企画が催される博物館や美術館。そこで働く学芸員という存在は、皆さんご存じかもしれません。
しかし実際、学芸員とはどんな人なのでしょうか?博物館や美術館にいて、何をしているのでしょうか?
中川さんへのインタビュー後編では、“学芸員の仕事とは何か?”という切り口から、
博物館における展示づくりの未来の在り方を問います。
※中川さんへのインタビュー記事、下國由貴さん執筆の1本目はこちら、本記事前編はこちら

(左)中川 あや 奈良国立博物館 学芸員
奈良文化財研究所の研究員として発掘業務を6年、展示業務を6年間行う。
その後、奈良国立博物館にて、考古学部門の研究員として研究・展示ともに意欲的に活躍中。

(右)堀井 麻央 乃村工藝社 プランナー
2016年乃村工藝社入社。自然博物館や科学館の展示プランニング業務を行う。


 

学芸員の仕事は
研究か、教育か


堀井:
前編に引き続き、後編では、博物館の仕事をもう少し深堀りしようと思います。
博物館の役割として、“研究・保存・展示”という三本柱が一般的に言われていますが、中川さんがこの中で、特に面白い、やりがいを感じるのはどの部分でしょうか?

中川:
これは順序が付けられないものだと私は思っています。まず、保存は博物館の業務にとって一番基礎になるものです。好き嫌いではなく、ルーチンワークとして必ず存在しています。そして、研究と展示は、並走しながらそれぞれに別の楽しみがあるというかんじです。
研究は自分が面白いと思う題材を扱いますが、展示では、自分の専門を扱えたとしてもせいぜい一割くらいですね。

堀井:
なるほど。私は理系出身ということで、自然博物館や科学館の仕事をすることが多いのですけれど、そういう意味では歴史や考古の博物館とはまた全然違う実情があるかと思います。生物や地学などは中川さんがおっしゃるような在り方がより一般的ですが、物理や化学といった分野を扱う科学館などは保存するべき資料を持たない場合が多いですし、またその分野の研究者が館にいないこともあります。

中川:
ええ!?それはちょっと衝撃ですね…。科学館に勤める人っていうのは、どういう立ち位置なんでしょうか?

堀井:
学芸員であったり、サイエンスコミュニケーター、アテンダントなど、いろんな呼ばれ方をしています。そういった方々は、もちろん理系の知識も備えていらっしゃいますが、研究者ではなく、教育普及に関わる仕事をしている場合が多いです。科学館に所属しながら、理学や工学の研究者として論文を出したりしているケースは、あまり聞いたことがないですね。

中川:
歴史系の学芸員の中でも、最近は研究をしない人もいますね。このところ指定管理※1が増えていて、その土地に根付いた研究者ではなく、場合によっては全然違う土地から派遣されてくる人たちがいるんです。そういう人たちは、教育普及に特化していて、研究はしないということもあります。
ただ、研究しない学芸員は望ましくないという雰囲気ありますよ。私も、研究者の集まりで論文の抜刷※2は堂々と渡せても、教育普及に力を入れていることは、なかなか言いづらい。研究者としてお給料もらっている以上、自分の専門分野の研究をして還元しなきゃっていう後ろめたさがあります。
※1 指定管理者制度…公共施設の管理運営を民間業者に代行させる制度のこと。代行する業者は、必ずしもその施設がある地域に本拠地を置くわけではない。
※2 抜刷…自分の論文を冊子にしたもの。


堀井:
教育普及活動も、研究に引けを取らないくらい大事な“お返し”だと思いますが…

中川:
でしょう。めちゃめちゃ還元してるやんって思うけれども、そういった考えはなかなか広まらないですね。使命として研究しろというなら、教育普及活動を減らすのではなく雑用を減らしてほしいというのが本音です。オフの時間をつぶしてでも研究をしている人もいますから。


歴史学や理学など、分野が違えば考え方も全然違うようです

 

博物館の教育普及の
担い手は誰か


堀井:
海外の博物館では、研究をする学芸員と、教育普及活動をするスタッフは職種や部署が分かれていることもあるかと思います。私はその考え方に比較的賛成なのですが、そのあたり、お考えはどうでしょうか。

中川:
私は、そうなったらつまらないと思います。作品の歴史的価値に詳しい人とは別の人たちが、教育普及をやるということですよね。何でもやりたい派の私には、そんな縦割りにして、作品に対してちょっと冷たい接し方をしてるようにも思えてしまいます。

堀井:
それは理想的ですけど、誰にでもできることではないような気もします。

中川:
最近うちの博物館でも、教育普及的な要素が弱いことに対して、海外みたいな縦割りの組織が無いせいだ、エデュケーターを置くべきだという意見があります。自分たちが教育普及に取り組めていない理由を、人材の不足に求めてしまっています。

堀井:
何でもやろうよ、という学芸員を集めるか、仕事内容によってエキスパートを集めるか、といったところでしょうか。館によって、どちらのスタイルもあって良いとも思いますが、どうでしょう。

中川:
たしかに国内の規模が比較的大きい博物館では、近年、教育普及の専門職を採用する傾向があります。ただ、その教育普及担当に何の仕事をやらせればいいのか、分からない人が多いような気がしています。ハンズオンや子供向けのワークシートを担当するのが教育普及なのでしょうか? 

堀井:
たしかに。そういう議論がないまま、縦割りにしても…

中川:
そうです。欧米の真似をして縦割りにしようとしてもいきなりは無理ではないかと。それとは違う方法として、研究する人が教育普及のマインドを持つことをもっと意識してもいいんじゃないかと思うんです。そちらの努力がなおざりにされているような気がしています。


展示にかける中川さんの情熱が、ヒシヒシと感じられます

 

未来につなぐために
学芸員は存在する


堀井:
中川さんが思う学芸員の使命とは何でしょうか。

中川:
私が考える学芸員の使命とは、作品を次の世代に安全に託すというものです。そのために学芸員の果たす役割は同様で、作品そのものに、愛情を持って、価値を維持したり高めることなのだと思います。そして、様々な人に作品や博物館のファンになってもらって、これらを失わないために、関心を持ち続けてくれたらと思っています。

堀井:
展示プランナーの私としては、例えば科学館をつくるにしても、科学を好きな人が増えてくれたらいいな、くらいの感覚でいます。やはり学者ではないので、「誰かに科学を継承せねばならん」とはならないというか…。ただ、好きでいてくれる人が増えれば、担い手もきっと現れてくれるだろうと漠然と思っているところはあります。

中川:
では、熱狂的なファンは増えるけれども、担い手が現れないという状況があったら、どうでしょうか?

堀井:
それは…良くないのかも。

中川:
やっぱり、後継者をつくりたい、この学問を楽しむという世界を持続したいっていう思いはあるってことですよね。

堀井:
うーん…ファンが増えること自体に価値を見出している、という方が的を得ているかもしれません。物事を好きになるということは、それだけで幸せなことだと思います。

中川:
なるほど…この議論に関して、最近受けた学芸員向けの研修ですごく印象的だった内容がありました。病院の院内学級の子供たちに対して、どう普及活動をすればよいかという課題が出されたんです。私は学芸員として、自分が関心を持っている作品を将来的にずっと守っていきたいし、世の中の人々にも関心を持ってもらいたくて普及活動にいそしんできたわけですが、一方で、将来が確約されない病を抱えた子供たちにも、果たして同じような気持ちで普及活動ができるだろうかと。そう考えた時、私の考えていた「学芸員の使命」はすごく貧しいものなのではないだろうかと、泣きそうになりました。
多分、私には、音楽を聴くような気軽さで、歴史的なものを楽しむということが、なにかしら物足りないという認識がどこかにあるのだと思います。純粋な楽しみとは割り切れず、どうしても未来につながる学びの要素を盛り込みたくなるし、そこが、学芸員としての私の未熟な部分なのだと思います。


♦ ♦ ♦


学芸員と展示プランナー、歴史と科学。同じ展示づくりを担う者の間でも、立場や経歴、分野が違えばこんなにも向き合い方が違うものかと驚かされます。特に、「作品を将来にわたり守る」「学問を次世代に継承する」という考えは、自館や専門を持たない展示プランナーにはない、学芸員ならではの視点だと感じました。
中川さんのチャレンジングな熱意に圧倒されつつも、非常に楽しいひと時を過ごさせていただきました。
中川さん、ありがとうございました!

 

(PHOTO by Hideki Sato)


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