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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
阿部 鷹仁 ラブハンター
ラブハンター

コロナ禍にこそ見える「サードプレイス」の価値とは

2020/05/27

押忍。
緊急事態宣言が全国的に解除されました。復興へむけた大きな一歩です。一方足元では依然、困難に耐える日々が続いています。否応なしに閉ざされた経済活動と歩みをともにする実店舗。空間創造・空間活性化が命題であった私たちにとって、その土俵が目の前で閉ざされていく姿には、辛酸な痛みや哀しみを覚えると同時に、これまでの価値観からアップデートせよ!と言わんばかりに、その刃先を突き付けられている様でもあります。

そんな閉ざされた世界からの脱却にむけて、様々な取組みが水面下で繰り広げられていることかと思います。そんな最中もあり、今回は連載コラムを1回お休みし、今だからこそ見える足元でのうねりと考察を、ここに記しておこうと思います。(連載記事はこちら

サードプレイスはいま

自宅(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、自分にとって心地の良い時間を過ごせる第三の居場所「サードプレイス」。

私にとってそれは、知恵とアイデアを授けてくれた「近所の図書館」でもあれば、コーヒーとソファで安定の作業環境を提供してくれた「シアトル系カフェ」でもあり、無心になれる時間とシックスパック(※今は2パック不在)を提供してくれた「スポーツジム」でもあれば、夜の孤独な戦いに居場所をくれた「深夜0時のバーガーチェーン」でもありました。現代の過密化する都市生活にとって、心理的なゆとりを与えてくれるこの機能は、もはや欠くことのできないものとなっていたのではないでしょうか。

外出自粛下で多くの店舗が営業自粛を余儀なくされた中、そのサービス提供の場は急速に「自宅とインターネット」へとシフトをみせました。会議室がWEB会議に、飯屋がフードデリバリーに、リテールがECにと代替が加速する中で、しかしどうにもこのサードプレイスは、自宅とネットでは代替できない、独自のロジックが存在しているように感じ得ます。

 ■私的なプレイスマップ


それはなぜなのでしょうか?その考察にあたって、足元で見られはじめた「サードプレイス代替トライ事例」を、いくつか取り上げてみたいと思います。


事例1:公園 / サードプレイスの公共化
最も身近な公の場の1つである公園。遊具など、ソーシャルディスタンスの確保が難しいところは閉ざされる一方で、個々人が適切な距離を担保しながら、サードプレイス化にトライする光景が見受けられます。


左)公園ベンチでリモートワーク / 右)林のベンチで青空読書


事例2:バルコニー / サードプレイスの所有化
自宅でありながらも、室空間からは緩く隔てられたバルコニー。間取りはLDKからLTK(T:テレワーク)へ、とも言われはじめた中、自宅に併設できるサードプレイスとしてその活用が活発化してきているように感じます。

左)テレワークバルコニー / 右)プレーパークバルコニー ※画像はイメージです


事例3:VR / サードプレイスのバーチャル化
自宅にいながらバーチャル空間へとトリップできるVR。映像と侮るなかれ、昨年発売されたスタンドアローン型の「Oculus Quest」はじめ、その没入感は日に日に現実に迫るものとなってきています。ましてや、在宅しながら別世界に飛び込めてしまう機能性は、サードプレイスをアップデートさせるものとして、大きな可能性を秘めているようにも感じ得ます。


左)「National Geographic VR」で世界の秘境へ / 右)「VRChat」でルーフトップバーへ

先駆者に学び、私もこれらの再現を通じて新しい感覚を得ました。しかし一方で、本来のサードプレイスが持ちえた魅力にはまだ迫っていないな、という後味が残ったのも事実。それはなぜか…。

大切なのは要素の“調和”と“流脈”

以前、国内外の飲食ブランドを広く展開されている企業経営者にお話を伺った際、ブランドを構築していく上で「3つの柱」が欠かせない、というコメントをいただきました。その3つとは、

1.  食
2.  接客
3.  空間

になります。食という飲食店の根幹価値の提供はもちろんながら、それを届ける人の価値や、その舞台となる空間の価値、この3つの主要価値が欠かせないという、的を射たシンプルな論です。そしてシンプルであるがゆえに、これらが何となく取り揃えられているお店は数あれど、
全てが“調和”し、1本の“流脈”のように存在しているお店がどれほどあるのか
と、あらためて考えさせられた次第でした。無論、サードプレイスは飲食店に限ったものではありませんが、この“調和”と“流脈”は、良質なサードプレイスに共通する重要な捉え方であるように思います。



例えば、私がよくサードプレイス利用する、とあるカフェ。チェーンながら母体からは独立したオペレーションで、静かな住宅地にお店が構えられ、個性あるスタッフによって敢えて属人的なコミュニケーションがとられています。仮にそこでの3つの柱を要素分解してみると、

1.  食:  定番のアイスラテ
2.  接客: 個性が滲み出た接客スタイル
3.  空間: 垢ぬけた空間

といった感じになりました。さらにそれらを個人的な店内での過ごし方と重ね合わせてみると、

「目の前で丁寧に抽出され、大振りのグラスへと注がれてやってきた定番のアイスラテ。豆が主張するどっしりした味わいながらも、冷たく口当たりの良いグラスラテは、作業へのやる気スイッチをしっかり押してくれる。それを届けるは、個性が滲み出た接客スタイルのスタッフ。直接会話するのは注文時と退店時と少ないながら、カウンター越しに店内を見守るその姿は、自宅にはない良い緊張感を何気なく与えてくれる。極めつけは、飾りすぎない垢ぬけた空間。レパートリーに富んだソファ配置はその日その日の過ごし方にフィットさせることができ、総じて居心地のよい環境に包まれた僕の頭は、いま、この上なく冴えている…。」

といったような、一連のストーリーが淀みなく流れてきます。
その体感を例えるなら、一流フレンチのコース料理とも言える、マリアージュそのもの。

つまり、サードプレイスが代替困難な最大の理由は、この調和と流脈による場のインテグレーション化ではないかと考えます。一連かつ密接に組み合わさったがゆえに部分的なパーツ交換が成り立たず、一言では表しにくくも、かけがえのない場として存在し得る、そんなロジックが成り立っていると感じた次第です。

ポストコロナのサードプレイスとは

COVID-19は、人類が築き上げてきた都市生活で見過ごされてきた脆弱性を、これでもかとえぐり出しました。
外出自粛要請の解除後も3密回避は続きますし、COVID-19が駆逐されたポストコロナの時代でも、新たなウイルスリスクや不確実性に備え、場は密集以外の経済合理性と空間性を実装していく必要があります。

これまでのサードプレイスが、都市生活の中で非常に機能していたことは事実ながら、ポストコロナにおいては変化が求められているのも事実。前述の公園・バルコニー・VRは、現状ではサードプレイスを代替するものには成り得ていないと感じながら、一方でそこには、これまでのサードプレイスが実装し得ていなかった新たな可能性が潜んでいるかもしれません。

例えば、公園にUber Eatsやアウトドアブランドが組み合わされば、そこはきっと新しい滞在価値が生まれるだろうし、バルコニーやVRに、SpotifyやAIコーヒーメーカーが調和されていけば、新しいサードプレイスのスタイルになり得るかもしれない。
様々な常識が打ち砕かれた今だからこそ、本質的な価値と代替しうる価値を俯瞰し、新しい機能や離れた発想、そしてテクノロジーを組み合わせることで、サードプレイスは更にインテグレートされた姿にアップデートできるのではなかろうか…。

深夜0時VRゴーグルの先に広がるBarで、そんなことに想いを馳せた今でした。ポストコロナのサードプレイス、考察の先へと歩みを進めていきたいものです。



次回は凡事徹底、連載コラム「曖昧なビジネス用語を大切りする」を再開したいと思います。
 

阿部 鷹仁 ラブハンター
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