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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
下國 由貴 Glo-calプランナー
Glo-calプランナー

空間とスタイリングと私 -前編-

2020/12/25
「いま、そしてこれからの空間づくりが持つ可能性」をテーマに、
様々な先駆書・挑戦者へインタビューを行う対談企画。


「ディスプレイ」と聞いて、皆さんが思い浮かべるものはなんでしょうか?

季節ごとに変化するショーウィンドーや店舗装飾…まさに「ディスプレイ」。
一方で、広告や映像など世界観を創り上げる「スタイリング」もディスプレイでは…?
さらに私たち乃村工藝社が手掛けるのは、空間での体験を創るディスプレイ…。
「ディスプレイ」と一口に言っても、微妙に区分けされていたり、成果物が違うなぁ…と気づいて、早数年。
過去対談いただいたお二人も「ディスプレイ」に携わる方だなぁと振り返りつつ、
第3回目では「スタイリング」のディスプレイに迫ります。

 

キラキラの世界観をデザインする美術デザイナー 山口友里さん

実は今回、中学生の頃からずっと憧れてきたコスメブランドの美術デザイナーさんとの対談が叶いました。
おとぎ話のようなロマンティックなストーリーと雰囲気を放ち、「変身・魔法・秘薬」がキーワードの
コスメブランドマジョリカ マジョルカ。
過去10年以上に渡り、当ブランドの美術デザイン・スタイリングをご担当されていた山口友里さんに
お伺いしました。


:PHOTO by Hideki Sato

山口友里さん:インテリアスタイリスト/美術デザイナー/造形作家

1996年 MV、CMなど映像関連の美術装飾を始める。
1998年 スタイリスト岡村雅人氏に師事、グラフィックを主に活動
2001年 独立
2013年頃から独学でオブジェ、人形制作を始める
2015年 四谷シモン氏に師事、球体関節人形の制作を始める
現在  広告・雑誌・展示などを中心にインテリアスタイリング、美術デザイン、空間プロデュースを手掛ける一方、
    造形作家としてオブジェ、人形などを発表し続けている。

関連リンク
◆山口友里オフィシャルサイト https://yuriyamaguchi.com
◆オフィシャルTwitter https://twitter.com/kirakirahappy55
◆オフィシャルInstagram:https://instagram.com/yamaguchi.yuri_

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下國:
SNSを通して憧れの世界観を作られていた方のお名前を知り、今回のようにお会いできて光栄です!
現在のご職業名には、インテリアスタイリスト・美術デザイナー・造形作家の3つを挙げていただきました。
山口さんの現在に至る経歴を教えてください。

山口:
私は、美術・デザイン系の勉強はしておらず、一般的な大学を卒業し、企業に就職しました。
就職はしましたが、ものすごくやりたかった職種では無く、面白いと思えずに一年ほどで
辞めてしまったんです。
「自分がやりたいことってなんだろう?」と立ち止まりました。
元々服飾業界にも興味があり、アルバイトをしながらスタイリストの専門学校に通いました。
卒業後に、尊敬していたファッションスタイリストに長いお手紙を書いて、弟子入りしたのですが
上手くいかず、悩んでいたときに知り合いから映像の小道具会社に誘われました。

いわゆる「小道具さん」は、肩書的には「装飾」と呼ばれます。
「装飾」はあくまでも「美術(セットデザイン)」の一部を表現するお仕事です。
セットデザイナーの指示に基づいて動くので、クライアントや監督とお話することはほとんどありません。
小道具会社で2年ほど勤める中、決められたセットの一部ではなく、
もっと自由に自分の思い描く世界を作ってみたい、スタイルを生み出すお仕事をしたいと、
だんだん思いは進化していきました。
そうしてインテリアのスタイリストを目指し、活動を始めたんです。



山口さんのお仕事道具。様々な道具を駆使して、ご自身で制作されていることが垣間見えます。

下國:
「スタイリスト」と職業名称が変わるだけで、仕事が変わるということでしょうか?

山口:
全然違いますね!ファッションの世界に「スタイリスト」という職種があるように、
「スタイルを生む人」という職能を示す、それだけで立場が出来るんです。
決意を新たにグラフィック(写真)の第一線で働くインテリアスタイリストにお手紙を書いて、
弟子にしていただきました。
 

一流の人に付いて、いい仕事を間近で見ることが、目や感覚を養う近道


下國:
弟子入り志願はアナログにお手紙で思いを伝えるというところがセオリーでしょうか?
先に映像業界でお仕事もされていますし、横のつながりで見つけられるご縁もありましたか?


山口:
私の時はとくにお手紙を書くというアプローチしかなかった時代だけど、
どうしてもスタイリストになりたかったんですよね。
業界が違うので、つながりで見つける感じはなかったかな。

一流の人に付いて、いい仕事を間近で見ることが、目や感覚を養う近道ですし。
自分が良いと思う、好きだと思う人、絶対に一流の人に付こうと決めていました。

インテリアスタイリストは、弟子入りをするとふつう3年くらいで独立するけど、
私の場合はファッションからインテリアへ移行し、小道具会社勤めも挟んで…という迷いながらの
時間も含めると、専門学校を卒業してから独立するまで5年以上かかっています。
その間に色んな人と知り合えたし、色んな仕事も出来て勉強になりました。

でも、「インテリアスタイリストになるんだ!」と目標が定まり、迷いなく働いていたところで
師匠からある日突然独立を言い渡されたんです。

「もうお前は一人でも出来るんだから出なさい!(独立しなさい!)」

と退職金も握らされて…(笑)
師匠の下を離れるのが不安で、1人でやっていけるのかも心配で、「やだぁぁぁ!」と
必死に抵抗しながらも、師匠の仕事をのれん分けしていただいたりして、徐々に独り立ちしました。
スタイリストとしてやっていきたいという気持ちはあるけど、どういうジャンルが好きかや
自分ならではというのがまだ見えていなかったです。
師匠はインテリアだけでなく、アート造形の仕事もしていたので、私もお手伝いをしながら、
こういう”造る“作業も好きだな~と思っていました。



(左から乃村工藝社プランナー下國、ゲスト山口友里さん、乃村工藝社デザイナー山田明加):PHOTO by Hideki Sato
今回は、プランナーの私だけでなく、デザイナーの山田も誘い、デザイナーも気になるスタイリングの技を山口さんに教えていただきました。


山口さんが手掛けて来られた企業広告シリーズ:PHOTO by Hideki Sato

下國:
映像の美術(造形)とグラフィックの美術(造形)に違いはありますか?

山口:
あります!映像の美術は、シーンが流れる中で映る背景の一部。
ディテールよりも雰囲気作りが重要です。
インテリアスタイリストの仕事は主にグラフィックがメインになりますが、雑誌やポスター、
ウェブサイトの画像として、拡大されたり凝視されたりするので、より作り込みはシビアになります。

下國:
スタイリストさんは、クライアントや全体を監修するディレクターやデザイナーからの要望に対し、
「こういうものをお求めであろう」とバリエーションを提示するのでしょうか?
それともスタイリストの世界観自体がクライアントにとって欲しい表現として依頼されるのでしょうか?
自分の世界観を売りにしている場合、自分らしい世界観ではない依頼でも受けるのでしょうか?

山口:
両方の依頼が多いです。独立したての頃は、逆にカラーがないのでノージャンルで受けていました。
色んなジャンルのスタイリングはしてきたので、”やったことがないジャンルのスタイリング“と
いうのはあまり無いですね。今は私の個性・世界観をご要望いただくことが多いです。
初めてのお仕事でも、企画が面白かったりスタイリングが必要とされているようでしたら
なるべくお引き受けするようにしています。

企業広告のスタイリングから、雑誌、イベントの空間スタイリングなど様々なご依頼がありますよね。
企業広告は、伝えるべきことが決まっているので、その中でどう表現するかが大切。
個性やカラーを出すことは少ないです。
一方で、雑誌やイベントなどは比較的自由度が高いので、「何か新しいこと、面白いことできない?」
というご依頼が来ることも多いです。
 

スタイリストや空間デザイナーは、クリエイターかアーティストか


山田:
どうも、空間デザイナーの山田です。
私が先輩から言われたのは、「デザイナーはクリエイターだが、アーティストではない」
ということです。
私も乃村工藝社という組織に属するデザイナーなので、「個性はあれど自分の作品を作っている」感覚では
無く、あくまでクライアントの要望を叶える「デザインという商品を売るクリエイター」だと思っています。

山口:
クリエイターなのかアーティストなのかは、すごく考えた時期があって、
線引きしている感覚はあります。
スタイリストもデザイナーも、クライアントからの依頼を受けて初めてお仕事が成り立ちますよね。
クライアントの意向が叶うように作るのがお仕事なので、私はそれとは別に作家というカタチで
自分自身の作品を作り始めました。

下国:
なるほど。山口さんのご職業で”スタイリスト“”美術デザイナー”と”造形作家“と名乗り分けているのは、
クリエイターとアーティストの部分を使い分けている、ということなんですね。

山口:
“スタイリスト”の仕事から始まり、今は“アーティスト”“作家”としての活動を打ち出すことも増えてきました。

下国:
スタイリストさんの個性は、コンセプトに合わせたモノを収集し、組合せを選び、コーディネートすること。
自分が思い描く世界観を表現するためにコーディネートするに止まらず、
空間ごと考える人もスタイリストでしょうか?
山口さんはスタイリストという枠を超えた独自ジャンルの「クリエイター」だと思います。

山口:
そうかも(笑)スタイリストの多くは、たぶん「デザイン」という行為はしていないかな、と。
すでにあるハコの中で何をどう置くか考えています。
私はハコから考えてつくっているので、世界観を創っていると思ってもらえるんじゃないかな。
 

自分が思い描いた世界観を差異無く表現するために

下国:
それと分かるのが、本日お持ちいただいたスケッチやセットデザインの制作途中写真なんですよね。
…山口さん、セットデザインもされるんですね! 何でも出来ちゃう!
 

山口さんの手書きスケッチや制作段階のセットデザインの記録を拝見させていただきました!


山口:
そうですね、セットも手掛けます。
什器の立面図やCGでのイメージ立ち上げまではしないですが、この時は正面スケッチだけでなく、
寸法を記入した平面図も書いています。
絵を基に、セットは大道具さんにつくってもらい、小道具は全て私が持ち込んで飾っています。
飾りの作業は人にやってもらうと、やっぱり自分が作りたいイメージと少し異なるので、
自分が思い描いた世界観を差異無く表現するためにも、最後まで自分でやります。

山田:
大道具さんへのバトンタッチ工程が、私たちと少し違いそうですね。
一括りには言えませんが…私たちの空間デザインだと、まず大道具さんへ正確に情報を伝えるためにも
空間とコンセプトに対して適正な、正確な寸法を第一に考えます。
つくるための情報としてだけでなく、クライアントから承認をいただくためにも、
仕様に間違いがないか証跡を残すためにも設計図が必要です。
スケッチで発注ということはなく、何より設計図第一。

正確だけど、雰囲気を醸す手法や具合の調整は言葉や数字で書き表せないですね。
それをスケッチやイメージCGが補完していますが、ニュアンスを示す仕上がりを指示することはできません。

全てが新品ピカピカという空間だけでなく、ストーリーを感じさせるテーマパークにあるような
経年を感じさせる汚し(エイジング)、ヨーロッパの裏路地で灯るぼんやりした明かり…など
イメージがあっても、演出技術を詳細に把握していないので、その道のプロにお願いすることが基本。
イメージ写真を基に、どう表現したら良いかを職人さんたちと相談しながら決定し、制作してもらいます。

“本当は新しいのに古い“モノを再現しようとすると技術が要りますよね。
山口さんのように実際に自分が手を動かしてエイジングをしたり、繊細な装飾を作り込んだり…
という造作は、私たちの場合はチームとなる職人にやってもらいます。

なので、山口さんが「自分が思い描いた世界観を差異無く表現する」という実感は、
私には正直あまりないです。
どうしてもいっぱいの人の手や頭を通るので、そこで「差異無く」というのは難しくなっていきます。
チーム仕事のメリットであり、デメリットでもありますね。

山口:
ふつうの仕事の流れとしては山田さんが仰るとおりだと思います。
私みたいなタイプの方が少ない、異例な進め方だと思いますよ!



:PHOTO by Hideki Sato

下国:
思い描く世界観を描き起こす時は、どこまで緻密な計画をするのでしょうか?
ザックリとした世界観構築+こういうモノを置きたいな~というくらいか、
左から何番目にこれを置く…までキッチリ決め打ちなのでしょうか?

山口:
緻密に計画することも結構あります。
最近だと、横浜のS/PARKのエントランス映像の「mé sa mé」は、すっっっごく緻密にあそこにコレを置いて…
という設定を計算しました。
本棚もありものではなく、寸法を出してつくってもらい、床や壁は大道具さんに、登場するモデルが持つ
数mの色鉛筆は造形部に作っていただいて、ここにモールディングをして、こういう色味にして…と
詳細に指示を出して作りました。
中に置くモノも本棚のサイズや雰囲気にピッタリ合うものを用意して作り込みをして…
ほぼ私のイメージ通りに完成しています!





※S/PARK 16K映像「mé sa mé」のご紹介はコチラ
http://spark.shiseido.co.jp/topics/1242/

資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)エントランスに設置された大型のディスプレイシステム。
横19.3m×縦5.4mでの超高精細な映像装置を使用。
映像コンテンツの一本として山口さんがセットデザインとスタイリングを担当された『mé sa mé』が上映されています
(2020年12月現在)

関連リンク
資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)オフィシャルサイト 
https://spark.shiseido.co.jp/

ご注意
・この告知で掲載しているウェブサイトのアドレスについては、当ページ作成時点のものです。
・ウェブサイトのアドレスについては廃止や変更されることがあります。最新のアドレスについては、ご自身でご確認ください。

 

三次元で作り込まれた世界は、作り込まれているからこそ写真に撮っても美しい


下国:
デザイン・スタイリング・デコレーションまでお一人でされるんですね。


S/PARKの映像を拝見してお聞きしたかったんですが、制作のためにどんな職種の人が
何人くらい集まって制作されたんでしょうか?

山口:
資生堂のご担当者や制作陣(監督、プロデューサー、カメラマン、照明、CG部、衣装、メイク他)数十人。
美術だけでも、私の他に大道具、造形部、アシスタント等で10人近くが関わりました。

お仕事の経緯をお話しすると、この映像は、資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)の
エントランスで上映するために、資生堂様とNHKエンタープライズ様がタッグを組んでの制作が
計画されました。
NHKエンタープライズの映像監督から依頼をいただき、私は参画することとなったんです。

下国:
この映像の面白さは、まず視点が小人とか妖精サイズなので、家具や調度品がとっても大きい。
そしてカメラが水平アングルのままスーッと平行移動することで、
ストーリーのシーンが移り変わっていく構成・演出!
この画面演出の企画は最初からありましたか?

山口:
核となるストーリーとシーンが平行移動していく…という演出は最初からありましたが、
セットの詳細な設定がまだありませんでした。
映像のテイストや見せ方、サイズ感は、監督や現場スタッフ(カメラマンや照明さん、CG担当の方など)と
かなり綿密に打ち合わせをしました。
でも、こういう仕事がしたかったので想い出に残るお仕事ですね。

大変だったポイントを挙げると、ストーリーのサイズ設定は小人サイズの少女目線。
エントランスでは横幅19.3mの画面内で登場する小人少女は、私たちと同じくらいの人間サイズだけど、
代わりに周りの家具や調度品が超巨大なんです。
鑑賞者である自分自身も小人になって様々なものを見上げるような映像です。
でも、撮影自体は普通サイズの家具や調度品をデコレーションして撮影し、小人少女はCGで加工して合成。

ものすごく大きいディスプレイモニターで流れることを見越して、本棚の画角や小物の映り方を計算して…
というのがすごく大変でした。
現実では5㎝くらいのものが1mくらいのサイズに見えるんですよ。
かなり拡大されるので、そこに置くモノもより鮮明に見えてきます。

下国:
やっぱり原寸で撮影していたんですね!
モデルに合わせて巨大な本棚をつくる方が大変ですもんね。
でも…うわ~~大変。
本当に自分が小人になったような視点で繰り広げられていく本棚周りがとても可愛かったです。

三次元で作り込まれた世界は、作り込みをしているからこそ写真に撮っても美しい。
二次元に振り替えても隙が無い。恐ろしい!
この映像は、S/PARKのエントランスで上映されているので、どなたでも自由に鑑賞できるんですよね。
贅沢だなぁとしばらく眺めていました。

山口:
今回のようにクライアントから「この人に任せてみたい」と、
表現をある程度冒険することが許されたお仕事は珍しく、やりがいがありますね。

下国:
共に冒険した仕事を1回、2回と重ねて世に出て行くことで、
冒険を欲した新たなクライアントが山口さんへまた依頼する…ということですね。理想です。

山口:
私のような仕事がしたい!と若い子から聞かれることもあるんだけど、
こういう仕事って確立されているわけではないんです。
デザイナーやスタイリストをやっていく中で、自分らしさ・やりたいことを追及して今があるという感じです。
私はスタイリストが基盤なので、空間デザインをする時も目指す世界観に見合った小物を自分で集められる、
というのは特性ですね。


:PHOTO by Hideki Sato

(後編へ続く)


 
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