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安田 哲郎 かけ算プランナー
かけ算プランナー

スポーツエンターテインメント空間2.0時代の到来(後編)

2021/02/26
前編ではスポーツエンターテインメント空間の変化について整理、考察しましたが、後編ではもう少し掘り下げて、「スポーツエンターテインメント空間2.0時代」の施設づくりに必要な要素について考察していきます。
 

「2.0時代」に求められる要素とは


前編にも記載しましたが、「スポーツエンターテインメント空間2.0時代」は日本においてスポーツエンターテインメント空間や施設づくりが変わってきている状態を表現した言葉です。そして、この根底にある要因は消費者の興行に対する楽しみ方の変化ではないでしょうか。

それはつまり、

WHAT(何を楽しむか)から、HOW(どのように楽しむか)への変化

であると私は考えています。

興行はわざわざお金と時間と手間をかけて行くものです。
ゆえに、そのスポーツチームがとても好きだったり、そのアーティストの大ファンだったりするコアなファン層が存在することが前提となります。
しかし、消費者の嗜好の変化により、それだけでは興行として成り立たない時代に入ってきたと感じます。

かつてのスポーツ界は今よりも人気チームと不人気チームがはっきりしており、人気チームには自然と多くの来場者が集まりました。また音楽シーンにおいても、かつてはミリオンヒットのCDが年間何十曲も生まれ、世代を超えて集客できるアーティストが毎年登場するような時代がありました。

しかし、現在は消費者の嗜好が多様化しています。
スポーツにおいては、地域密着の営業努力により人気チームが分散する傾向にありますし、音楽においては、ストリーミング配信を主軸としたアーティストやオンラインコンテンツの充実等、消費者の選択肢が広がっています。

このような時代においては、嗜好の多様化によってスポーツや音楽の楽しみ方も広がっており、リアルな場での試合やライブにおいても、コアファン層だけをターゲットとした興行の作り方だけではなく、家族や友人等を誘ってグループで来たくなるようなライトファン層向けの集客施策を提供していく必要があります。

ここで重要なのは、ライトファン層はコアファン層と比較して、
「興行対象のためにいくらお金や手間をかけてもいい」という人達ではないため、
「単純に楽しい時間を過ごしたい」ということに比重を置く傾向にあるということです。

そのため、興行主としてもWHAT(何を楽しむか)から、HOW(どのように楽しむか)を提供していくという発想が必要になってきます。

それは、誰と行くのか、どの時間帯に行くのか、どんな楽しみができるかといったことで、例えば、春の昼間に家族でスポーツの試合を観戦して、そのまま敷地内でBBQをするとか、夏の夜に友達とライブに行ってそのまま花火を見ながらお酒を飲む等、エンターテインメントを絡めた時間の過ごし方を提案するということだと思います。


少し前段が長くなってしまいましたが、ここからは上記のような消費者の嗜好の変化に応じた
「2.0時代」の施設づくりについて、①周辺環境、②来場者、③バックヤードという3つの視点で考察しようと思います。

 

①周辺環境とつながるオープンな施設


まず1つ目の視点は周辺環境です。

こちらは「周辺環境とつながるオープンな施設」というキーワードが重要になります。
これは今までのように施設単体で完結するのではなく、もっと外に開いていくべきという考え方がベースになっています。
周辺環境とのつながりとは、周辺の自然や施設と連携するという意味もありますし、地域のコンテンツを採り入れていくという意味も含みます。

何故ならば、「HOW(どのように楽しむか)」という考え方に基づいた時に、その興行前後にどのように時間を過ごせるかがとても重要だからです。

興行前に会場の近くで遊んだり、身体を動かしたり、買い物をしたり、または興行後にそのまま食事をしたり、別のレジャーを楽しんだりというようなことが出来れば、興行中の2~3時間の滞在だけでなく、半日、1日といった形で滞在時間が伸びていきます。滞在時間が伸びればその分消費する金額も大きくなり、周辺地域への経済的な波及効果も生まれます。これは決して大都市だけの話ではなく、地方都市にも当てはまります。

これからますます日本は人口減少が進み、地域の賑わいづくりがより難しくなっていきます。
しかし、スポーツエンターテインメントは地域内の人々の心の拠りどころとなるとともに、地域外の人々を呼び寄せ、消費を生む力があります。

したがって、地域の人や観光客に対してエンターテインメントを絡めた時間の過ごし方を提案できれば、それがスポーツエンターテインメントを核とした集客装置となります。そしてそのような試みを行うためには、企業と自治体がタッグを組んで開発していくビジョンがより大切になってくると思いますし、そのような施設が選ばれていくのだと思います。


 

②来場者の体験価値を向上させる施設


2つ目の視点は来場者です。

こちらは「来場者の体験価値を向上させる施設」というキーワードが重要になります。
これはただイベントを観る(Watch)空間から複合的な体験性(Experience)を提供する空間への変化をより求められてきているという考え方がベースになっています。

コロナ禍を契機にスポーツエンターテインメントの世界でもDXの波がやってきました。オンラインでの配信やデジタル課金コンテンツは一般的になり、無観客の配信イベントも珍しくなくなりました。今後さらに5Gが普及すれば観覧スタイルはより進化していき、リアルとバーチャルの境界は無くなっていくと予想されます。

そんな時代においては、わざわざリアルな会場に行きたくなる目的が必要になります。
そこで重要になってくるのが空間とデジタル技術で来場者の体験価値を向上させる施設づくりとマネタイズ施策です。会場に行かないと体験できないことや体験できない時間をいかに提供するかが鍵になり、そこにマネタイズのチャンスが生まれます。逆に変化に対応できない施設は中長期的に淘汰されていくのではないかと思います。


 

③バックヤードのホスピタリティを充実させた施設


最後の視点はバックヤードです。

こちらは「バックヤードのホスピタリティを充実させた施設」というキーワードが重要になります。
一見、バックヤードのホスピタリティの充実は「2.0時代」の変化に関係ないように思えますが、バックヤードが充実している施設は良い興行主に選ばれ、結果的に集客力のあるイベントを提供できるという利点があります。

一般的にバックヤードと呼ばれる裏側のエリアには来場者は立ち入らないため、国内施設においては必要最低限の機能を満たしていれば、必要以上に空間を豪華に設えることはあまりありません。(例えば、スポーツ選手が利用するバックヤードエリアはロッカールーム、食堂、トレーニングルーム、リラックス施設等であり、アーティストにとっては楽屋、スタッフ控室等。)

しかし、海外の有名スポーツエンターテインメント施設はバックヤードへの投資がホームチームの勝率を向上させたり、著名な興行主やスーパーアーティストに選ばれたりする要因となるという考え方を実践しており、日本より豪華な空間になっている事例が多いです。

バックヤードにどこまで投資するかはコストと効果のバランスもあるので一概に良し悪しは言えませんが、昨今の国内施設の計画においては担当者が海外視察をして良い部分を採り入れる傾向が強まっているため、今後日本でもバックヤードに対するホスピタリティを充実させるという考え方がスタンダードになっていくかも知れません。


 

スポーツエンターテインメント空間の未来をつくりたい


ここまでスポーツエンターテインメント空間が今後進んでいく方向について考察してきました。
前編の冒頭でも記述したように、新しいフェーズに入った「2.0時代」においては、スタジアムもアリーナも空間をどんどん進化させられる大きな可能性を秘めていると感じていますし、この分野は日本において有望な成長分野だと信じています。

「2.0時代」が始まりつつある今、もともとスポーツが大好きだった自分が、スポーツエンターテインメント空間の未来をつくるという仕事に携われていることはこの上ない幸せですし、空間づくりのプランナーとしてこの分野を開拓していきたいと思っています。

近い将来自分が携わったスポーツエンターテインメント施設で多くの観客が熱狂していることを楽しみに空間プランニングをしていきたいです。

最後までお読み頂きありがとうございました。
 
安田 哲郎 かけ算プランナー
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