nomlog

NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
市川 愛 プランナー
プランナー

花×歌舞伎!春を感じるアート空間

2021/03/19
こんにちは、日本文化大好きプランナーの市川愛です。
暖かい日が増え、また各地で桜の開花宣言がされ、いよいよ春めいてきましたね。
まだまだ続くコロナ禍でワイワイとお花見は難しい状況ですが、私の大好きな『花』と『歌舞伎』をテーマにした展示の内覧会に招かれ、千葉県市川市の芳澤ガーデンギャラリーまで行って参りました。

その名も“花が彩る歌舞伎展”、緊急事態宣言延長の影響を受け残念ながら一般公開は中止となってしまった展覧会です。

写真左から㈱乃村工藝社の藤巻、森田、市川、ご案内下さった松竹㈱の岩田さん

展覧会場の芳澤ガーデンギャラリーは、約1,000坪の敷地に百樹園と名がつく庭園を持ち、四季を彩る木々や草花の空間と共に、アートを楽しむことができます。今回は桜の季節に合わせ、歌舞伎の三大名作の1つである『義経千本桜』を中心に、古典とデジタルを融合した展示が企画されていました。

『義経千本桜』とは

ここで『義経千本桜』について、簡単に紹介しておきましょう。源義経が兄の頼朝に疎まれ都落ちとなったことをきっかけに、討ち取られたと思われていた平家の三人の武将、知盛・維盛・教経が再び源氏に挑むことで、義経の愛妾である静御前(しずかごぜん)や市井の人々を巻き込みながら様々なドラマが展開される人気の演目です。

今回の展示では“花”のあるシーンとして、“梅が彩る”『鳥居前の場』と、“桜が彩る”『吉野山の場』がメインで取り上げられていました。

『鳥居前の場』は九州へと都落ちする義経一行が、伏見稲荷前に到着するシーンです。兄との争いを避けたい義経は、京での住まいであった堀川御所で頼朝の討手と戦闘を始めた弁慶を叱責します。弁慶は静御前のとりなしで義経の供に加わることになりますが、当の静御前は女性であるが故に同行は許されませんでした。

寂しがる静御前に義経は、狐の夫婦の皮でできた『初音の鼓』を託します。残された静御前は、追っ手がやってきて危うくなったところを義経の家臣・佐藤忠信に救われます。忠信は静御前を助けた功により、立ち戻った義経から源九郎(げんくろう)の名と鎧を賜ります。『吉野山の場』は静御前と忠信が義経を慕って、義経が身を隠しているという吉野山へと旅をするシーンです。実はこの忠信、『初音の鼓』にされた狐の夫婦の子供で…というのが『義経千本桜』の見どころのひとつです。

いざ、歌舞伎の舞台へ

最初の展示室で迎えてくれるのは、『鳥居前の場』と『吉野山の場』の舞台の再現です。
実際の舞台で使われる衣裳・小道具・大道具を間近に見ることができます。

『鳥居前の場』左:佐藤四郎兵衛忠信(実は源九郎狐)右:武蔵坊弁慶

衣裳や小道具は細部まで忠実に着付けされていました。着物が衣桁(いこう:着物用ハンガーラック)にそのまま掛かっているものとは異なり、生命力を感じさせ舞台の臨場感に溢れています。まるで本物の役者さんがその場にいるかのようです。

歌舞伎の衣裳は非言語で人の心をつかむ力があると思います。美しい色彩と、大胆な形はまさにアートといえるでしょう。
私は大学時代に歌舞伎研究会の幹事長をしていましたが、団体観劇に参加する海外留学生の多くが「豪華で美しい歌舞伎の衣裳の写真を見たことがきっかけで生の舞台を見たくなった」と言っていました。私自身も小学生で歌舞伎を見始めた頃は、話の内容はよくわからないまま、ひたすらオペラグラスでお姫様の衣裳を見ていたものです。今回の展示会のようなクローズドな空間に限らず、歌舞伎の衣裳がより多くの人の目に触れることで、歌舞伎ファンが増えていけばよいなと思います。


『吉野山の場』中央:初音の鼓、忠信が義経から賜った鎧 右:静御前

そして大道具、こちらも色彩が華やかで、惹きこまれます。乃村工藝社の創業者である乃村泰資は、芝居の大道具の世界からスタートしたということもあり、歌舞伎とのご縁を感じます。花好きの私が目を引かれたのは、桜や梅の大道具です。客席から見ても映える大きさに調整して作られていました。桜の足元に入って、一足早いお花見を楽しませて頂きました。

デジタルの力で歌舞伎の魅力を再発見

2つ目の展示室は カブキノヒカリと題し、最新のテクノロジーを用いて、先ほどの『鳥居前の場』と『吉野山の場』を体験できる趣向が凝らされていました。

灯籠を持って『鳥居前の場』に近づくと、どこからか佐藤忠信が現れ、物語が始まります。
影絵であることで、衣裳をつけた役者さんを目の前にしているよりも一層所作が強調され、見入ってしまいます。


『吉野山の場』は歩くごとに足元の桜が揺らめきます。静御前の舞を堪能しながら、手元のホログラムに映し出された鼓を叩くと物語のキーとなる狐が登場するなど、鑑賞者が自ら演目に参加できるのは、通常の観劇にはない体験です。アートとしても美しいデジタルを用いた歌舞伎体験は説明がなくても楽しめるので、子供から大人まで、また国内外問わず、歌舞伎鑑賞の入り口の1つとして今後より一層普及していくのではないでしょうか。


デジタル演出からリアルの世界に戻ると、平知盛の壮絶な最期を描く名場面『大物浦(だいもつのうら)の場』から『碇知盛』の場面の小道具が展示されていました。歌舞伎の舞台の道具は大きさに関わらず、固定されて動かないものが“大道具”、身につけるもの・手に持つもの・移動できる小物が“小道具”と定義されています。貴重な展示物にですので触れないように注意しながら、当社の藤巻にポーズをとってもらいました。実際のシーンは平知盛が綱を体に巻き付け、碇を持ち上げるのですが、サイズ感が伝わるでしょうか…?

歌舞伎ファンに嬉しい舞台裏見学

3つ目の展示室は奥に和室があることを活かし、押隈(おしぐま)の展示や役者さんの楽屋見学が楽しめるようになっていました。
押隈は役者さんの演技が終わったあと、隈取(くまどり:歌舞伎の化粧)を紙または羽二重などに押しあてて写しとったものです。同じものは一枚もなく、何枚も取れるものではないため、歌舞伎ファンは贔屓の役者さんの押隈が手に入ると舞台の記念として大切にとっておきます。私も入手できた折には、ぜひ掛け軸にしようと思います。

床の間には2つの鎧が並んでいます。この鎧は、怨みを晴らす機会を伺い船宿・渡海屋の主人・銀平に姿を変えていた平知盛が、義経一行の訪れを好機とし、幽霊に身をやつして襲撃しようと身にまとったものです。義経に正体を見破られ、劣勢となった知盛は大物浦で碇を重りに海へと身を投げます。右側の血だらけの鎧は瀕死の知盛の衣裳です。激しい戦いであったことが見て取れますね。
鎧の左側に飾られた掛け軸は本展のテーマに合わせ、小道具さんと相談し桃の花の絵を選んだそうです。実際の劇場でも役者さんは同じ楽屋で1か月過ごすので、お香を炊いたり好みの掛け軸やいけばなを飾ったりするようで、細かい再現が歌舞伎ファンを喜ばせてくれる展示となっていました。


最後に、本展のアンバサダーである市川笑三郎さんの拵え(こしらえ)を映像で拝見しました。男性から女性へ、また年齢を超えて変身していく様子は歌舞伎ならではで、何度見ても感心してしまいます。

歌舞伎展示を歌舞伎鑑賞の入り口に



歌舞伎の世界にどっぷりつかってギャラリーの外に出ると、早咲きの桜が目を楽しませてくれました。本当に、最初から最後まで“花が彩る歌舞伎展”でした。
全体の展示を通し、歌舞伎は衣裳・道具・化粧など構成する要素のひとつひとつがアートであると改めて実感させられました。本展のような試みは、劇場外で歌舞伎の魅力に触れる機会として、歌舞伎ファンのすそ野を広げてくれるでしょう。

歌舞伎座をはじめ各劇場では感染予防対策をとりながら、公演が行われています。
体感型の展示で歌舞伎への愛情が深まったので、マスクをしっかりつけて、近いうちに観劇にも行きたいと思います。

参考:カブキノヒカリ
https://www.shochiku.co.jp/pj/kabukinohikari/

 
市川 愛 プランナー
プランナー
ご意見/お問い合わせはこちら ※内容欄に担当者名をご記載ください
市川 愛 の新着記事
デジタル×空間 の新着記事 MORE