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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB
岸田匡平 展示師
展示師

漁に出る。

2019/11/14

2017年12月21日
午前3時。ぼくは石川県能登半島の海にいた。

満天の星空。静かな波。エンジン音が空と海を切り開く。
漁船を取り囲むように数十羽のウミネコがほぼ同じ速度で飛行し、
空中に止まっているかのように見える。

20分ほど走ると船が止まり、漁が始まった。漁場は意外と近くにあった。

漁師の背後から、ウミネコたちは獲物を狙う。
手を伸ばせば届く距離に行っても、ウミネコは逃げない。
野生のはずなのに人間に慣れている。
漁師の身体からは真冬だと言うのに湯気が立ち上がっていた。



申し遅れました。
ぼくは、漁師でも、ドキュメンタリー作家でも、テレビ番組のディレクターでもありません。
博物館や広報施設の企画を担当しています。

ぼくにとっての「企画」は、このように現場から、はじまります。
現場のちょっとした疑問、発見、驚きを大切にして、企画したい。と考えています。

今回は、ぼくが、設計から完成まで、展示の企画に関わらせて頂いた、
「のと里山里海ミュージアム」での経験を元に

博物館づくりはおもしろい!

ということを、お伝えします。

 

日本中にある里山里海。
ここにしかない里山里海。


のと里山里海ミュージアムは、石川県七尾市にあります。
能登半島の里山里海をテーマとした施設です。

都会に生活拠点を置くぼくが、最初に抱いた里山里海のイメージは、
豊かな自然に囲まれて、のんびりとした環境です。
ごはんも水も空気もおいしく、いつかは暮らしてみたいなぁ、と考えています。

そんな里山里海は日本中にあります。世界中にだってあります。
「のと」の里山里海の特徴って何だろう?

インターネットでもわかりません。本を読んでも、よくわかりません。
そこで、地元の学芸員さんの話を聞いて、里山を実際に歩き、里海の漁に同行し、
地元の方と食事を共にし、徹底的に現地調査や取材を繰り返しました。

すると、おもしろい展示の種が現場には転がっていました。
見たことがないくらいの星の数で埋め尽くされた夜空や、棚田から望む海の絶景。
山城から望む街に、かつて上杉謙信が望んでいたであろう景色。
炭火焼の能登牡蠣やぶりかま定食のうまさについては、言うまでもありません。

そんな魅力がある一方、
里山では人間による手入れが行えず、元々いなかった熊が近年目撃されています。
過疎化によって担い手の少なくなったお祭りは、観る祭りから参加する祭りになり、観光客が積極的に参加するようになってきました。

そこで、のと里山里海のリアルな暮らしを伝えるため、
大量に保管してあった剥製や標本を部屋中に並べて、「里山里海のいきもの」と計画していた部屋を変更して、
「里山里海に暮らす」コーナーを表現しました。

 

現場の声は、
のと里山里海のリアルを教えてくれる。

 
当時、現場で発見した驚きを元に博物館に設置される解説文の文章案を、ぼくは書いていました。

クマの展示に対して、
「加賀から熊がやってきた。」
能登半島には熊はいない。と言われていました。しかし、2012年に熊の目撃情報が5件寄せられました。なんと能登島(※能登島は、能登半島の七尾湾に浮かぶ島です。陸とは2本の橋で繋がっています。)でも熊の目撃例があるのです。本当か嘘か、背泳ぎで海を渡ったとも言われています。どうして熊は七尾市に来たのでしょう。豊富なご飯が熊を七尾市に引きつけた?熊にも住みやすいの?里山の環境が変わり、生態系のバランスが崩れた?


法被の展示に対して
「守るのは伝統だけじゃありません。」 
過疎化によって、祭りの担い手は減ってきています。でも祭りの時期になると、多くの観光客も参加して楽しんでいます。地元でお祭り文化を引き継いでいくことと、初めて参加する観光客の安全を守ること、どちらも大切なのです。地元の子どもたちは、今日もどこかで練習しています。都会に行った子の同窓会は毎年集まるお祭りです。


熊の剥製の横に、「クマ 食肉目クマ科」
法被の横に「法被 祭りで使用されるもの」
と辞書的な解説ではなく、「のと」の里山里海にしか書けない発見的な内容だと思います。

実際は、学芸員さんに、展示の意図を汲んで頂いて、解説文を書いてもらったので、
現在展示している解説文は異なりますが、趣旨は変わっていません。

 

空中を散歩しているかのような表現


能登の里山里海を歩いていると、山から海に向けて俯瞰的に見る風景がとても気持ちよく、
この素晴らしい風景を博物館ならではの空間で、ダイナミックに見せたいと考えました。

正面と床面の2面映像の組み合わせで、まるでタケコプターで空中を散歩しているような感覚です。

YouTubeなど動画共有サイトは、いつでもどこでも、世界中の素晴らしい映像体験ができます。
そんな時代だからこそ、この施設でしか体験できない
「能登の里山里海×ドローン×正面床面映像」を味わってほしいです。

現場から始まった企画のほんの一部を紹介しました。
ぼく自身がめちゃくちゃ楽しみながら企画していたことが伝われば幸いです。

のと里山里海ミュージアムは開館後1年がたちます。
順調に来館者数が増えていると聞きました。

何より嬉しかったことは、
一度来た地元のおじいちゃんが、帰省してきた孫を連れて再訪されたことを聞いたことです。
ぼくたちが企画した博物館の展示をきっかけに世代を超えて会話が生まれる。最高です。
 

博物館づくりはおもしろい。

博物館の数だけ現場があります。
最近ぼくが担当した現場は、
福井県年縞博物館~湖の底に溜まった土の博物館~
・のと里山里海ミュージアム~能登半島の里山里海の博物館~
ひだ宇宙科学館カミオカラボ~カミオカンデと宇宙線ニュートリノの科学館~
日和山海岸ミュージアム~水族館の中にある、生物も剥製もない、いのちの博物館~

湖底から宇宙まで、自然から歴史まで。森羅万象、多岐にわたったテーマに挑戦しています。
だから、毎回毎回好奇心が尽きることなく、おもしろいのです。

ある時は、研究者と世界初の撮影に挑戦し、ある時は、漁師と一緒に船に乗ります。
また、ある時は、学者と巨大地下施設に入り、ある時は、飼育員の日常に密着します。
だから、毎回毎回世界が拡がり、おもしろいのです。

テーマの幅広さに、自分でもビックリしますが、
どのプロジェクトでも現場に行き、現場に転がっている疑問、発見、驚きをすくいあげ、
博物館で伝えたいことを、形にしています。

クライアントもプロジェクトメンバーも
チーム一丸となって進めるプロセスは最高に、おもしろいのです。

そして、今日も新たな現場に行ってきます。
岸田匡平 展示師
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