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ノムログ編集部 “空間と体験”を追求するチーム
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地域と共創してきた長崎歴史文化博物館 PPP事業の15年

2021/10/19
乃村工藝社グループの文化環境事業は、博物館・美術館の展示装飾や空間づくりだけでなく、自治体と連携して企画段階から管理運営に携わっているのが大きな特徴です。まさに、乃村工藝社グループがめざすソーシャルグッドの4つの領域の「地域」、「文化」、「人」に関わる事業です。このセッションでは、管理運営に携わるPPP※事業の内容とその成功事例の一つである長崎歴史文化博物館の取り組みをご紹介します。

※ PPP(Public Private Partnership):公民が連携し、公共サービスの提供を行うスキーム。民間の資本やノウハウの活用による効率性や質の向上を目指す。公民連携とも呼ばれている。

本稿は、乃村工藝社グループの「ソーシャルグッド」なプロジェクトをご紹介するイベント「ソーシャルグッドウィーク 2021」のレポート記事です。

*「ソーシャルグッド」の詳細はこちら
乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編後編
*「ソーシャルグッドウィーク2021」のレポート記事一覧はこちら

長崎歴史文化博物館×PPP事業



乃村工藝社 第三事業本部 文化環境事業部 PPP部
森 美樹

文化施設の展示プランニング業務を経て、2005年よりPPP部で文化施設の運営業務に携わる。業務内容は、運営施設のサポート、公募プロポーザル対応、運営施設の社員研修や交流の場づくりなど多岐にわたる。


乃村工藝社 第三事業本部 文化環境事業部 PPP部
竹内 有理

大学では西洋史を専攻、卒業後、英国レスター大学大学院で博物館学の修士号を取得。1996年から乃村工藝社グループの文化環境研究所で特別研究員として博物館に関する調査研究・展示設計業務に従事。2005年に乃村工藝社に入社し、長崎歴史文化博物館に赴任。以来15年間にわたり学芸業務に関するグループリーダーとして企画運営や調査研究に携わる。2020年より文化環境事業部PPP部に異動。

地域活性化に貢献する、乃村工藝社のPPP事業


(森)
最初に、乃村工藝社グループのPPP事業における文化施設の管理運営についてお話します。乃村工藝社では、ミュージアムに特化した文化施設の管理運営を行っています。全国で15館、そのうち指定管理が9館、運営受託が6館※となっています。事業規模は、運営施設15館の年間入館者数が約200万人、年間売上が約22億円です(いずれも2019年度実績)。運営に携わる社員は15館で210人、この中には館長やマネージャー、学芸員、サイエンスコミュニケーター、アテンダント、広報、経理などの事務スタッフが含まれています。

※2021年7月時点 


※運営施設数は2021年7月時点


PPP事業がスタートした経緯ですが、2003年に指定管理者制度が施行され、それまで自治体が担っていた公共施設の管理運営を民間企業やNPOが代行できるようになりました。それを受けて、乃村工藝社グループでも2004年にPPP開発準備室を発足、2005年に長崎歴史文化博物館の指定管理者になってから正式にPPP開発センター(現 PPP部)となりました。
PPP事業の理念の根底には、乃村工藝社グループの経営理念があります。経営理念の「新しい価値の創造」を、PPP事業の理念では「文化施設の価値を高め地域の活性化と変革の触媒として成長させることにより、豊かな人間環境づくりに貢献する」としています。


「文化施設を地域の活性化と変革の触媒にする」という考え方は、上山信一氏・稲葉郁子氏が2003年に上梓した『ミュージアムが都市を再生させる』の中に出てくるものです。博物館と社会の関わりが、第1期が「コレクションの保存施設」、第2期「社会教育の拠点」から、第3期では「地域を変革する触媒装置」になろうとしているとされています。第2期の博物館のあり方が、乃村工藝社グループが得意とする利用者を主役としてマーケティングやサービスを重視し、質の高いものを提供していくものだとすると、私たちはさらに「地域を変革し地域力を高める」という新たな課題にチャレンジしてきました。



指定管理業務は、設置者である自治体と協定書を交わして、パートナーという立場で施設の運営を代行し、運営課題を共に解決していくのが特徴です。それを行うには設置者だけではなく、地域の様々な人々との連携や協力が欠かせません。
また、PPP事業は利用者である地域の人々に直接さまざまなサービスをご提供するだけでなく、地域の人々にボランティアなどとして関わっていただき、相互に働きかけをしながら運営しています。そのような運営によって、社会に対する使命を果たし、社会益を生み出すとともに、収支を適切にマネジメントすることで事業益を生み出しています。

ミュージアムの指定管理者としての私たちのチャレンジは以下の3つです。一つ目は学芸業務も一括して博物館を運営すること、二つ目は多彩な経験を積んだ乃村工藝社グループのOB人財が統括責任者として、未経験領域である施設運営に挑戦していること、3つ目は学芸員を社員として採用していることです。



では、このようなチャレンジを通じた、実際の施設運営の成果を、いくつかの事例を通してご紹介します。

佐賀県立宇宙科学館

  

佐賀県立宇宙科学館では、2006年に運営を開始して以来、職員が創意工夫をして独自の企画展を開催し、入場者数を大きく伸ばしています。そして入場者数増加の実績を基に県から予算を獲得し、2015年には展示リニューアル(※1)が実現し、お客様に一層喜ばれています。リニューアルの設計施工は乃村工藝社グループで担当しました。
また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との連携事業を推進し、「JAXAGA SCHOOL(ジャクサガスクール)」(※2)という宇宙を切り口とした教育プログラムを提案し、今年の夏から事業をスタートさせています。

(※1)地球発見ゾーン等の部分リニューアル
(※2)佐賀県とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が2021年3月に連携協定を締結。「JAXAGA SCHOOL(ジャクサガスクール)」はその教育分野における事業



佐賀県立宇宙科学館
https://www.yumeginga.jp/

もりおか歴史文化館

 

岩手県のもりおか歴史文化館 では、学芸員の調査研究をベースとした新鮮な切り口の企画展を開催し、マスコミにも取り上げられ、話題になることで、市民が博物館へ足を運ぶきっかけとなっています。また、観光施設という性格も持っていて、企画展に合わせたオリジナルグッズや地域の特色を活かしたお土産を地元の人々と連携して開発・販売し事業益を増やしています。オンラインショップでの販売も開始しました。

もりおか歴史文化館
https://www.morireki.jp/
 

多摩六都科学館

 
多摩六都科学館は、地域づくりを目標の一つに掲げ、館が地域のハブとして機能することを目指しています。その成果の一つがボランティア活動の活性化で、大人とジュニアを合わせて150人が活躍しています。ボランティアが運営するコーナーは来場者に一番人気のあるコーナーになっています。館の最も新しい事業目標は、ソーシャルインクルージョンです。お年寄りや障がいのある方、在住外国人の方など、誰でも一緒に楽しんで、学ぶことができる場づくりに取り組んでいます。

多摩六都科学館
https://www.tamarokuto.or.jp/



(森)
博物館などの文化施設の運営を通じてソーシャルグッドを生み出し続けていくための課題の一つは、社会益と事業益を両立させることです。また、貴重な人財材が安心して働ける環境づくりはますます大きな課題になっています。そして、誰も排除しないインクルーシブな運営、多様な方々をお迎えできる施設づくり、さらに乃村工藝社グループの他本来の事業との相乗効果を高めていくことも必要です。最後に、これは文化施設全体の課題となりますが、withコロナ時代の新たなマネジメントモデルづくりが必要とされています。


 

博物館を、地域の賑わいの拠点とする



(森)
ここからは、長崎歴史文化博物館の地域との共創の取り組みについて、竹内さんからお話していただきます。

(竹内)
それでは長崎歴史文化博物館で具体的にどのような取り組みをしてきたかを、今回のキーワードであるソーシャルグッドの視点からご紹介させていただきます。
長崎歴史文化博物館は、長崎市の中心部に2005年11月3日に開館しました。江戸時代の長崎奉行所の遺構の一部を復元整備した施設です。建築設計は黒川紀章建築設計事務所が行い、設置者は長崎県と長崎市、開館時から3期にわたって乃村工藝社グループ が指定管理者として管理運営を行っています。博物館のスタッフは館長を含めて25名、その他にチケット販売等を行うフロアスタッフが15名ほど働いています。2019年には、開館以来の入館者数が700万人を達成しました。年間入館者は毎年約40万人をキープしており、全国の歴史系の博物館の中では飛び抜けています。



長崎歴史文化博物館は、以前からあった県立長崎図書館、旧市立博物館、旧県立美術博物館に収蔵されていた資料を継承し、コレクション数は約8万1千点にのぼります。これらの資料の保存管理も私ども指定管理者の重要な仕事です。これらのコレクションを元に、調査研究を進め、その成果を展示等で発表しています。常設展示室では、主に長崎の近世の海外交流史をテーマにした展示を行っています。企画展示室では、長崎の特徴を語るさまざまなテーマを取り上げた企画展を年間4~6本開催しています。しかし、こうした展覧会だけでは集客が難しいので、復元した奉行所を使って奉行所御白洲(おしらす、犯罪者の裁きが行われた場所)での寸劇、節分豆まきなどさまざまなイベントを企画するほか、コンサートやパフォーマンス書道など学生たちの発表の場としても利用していただき賑わいづくりをしています。




ここからは「ボランティア」、「伝統工芸」、「長崎くんち(長崎の伝統行事)」、「自治会」、「地域産業」、「子ども」という6つのキーワードに沿って取り組みをご紹介します。

博物館×ボランティア

博物館が地域社会に根付いていくためには、何らかの形で市民が参加できる受け皿をつくる必要があると考え、5月に長崎へ着任して早々に博物館ボランティアの募集の業務に取組みました。最初の説明会には約200名の市民が集まり、7月から11月にかけてボランティア研修を行って開館に備えました。最終的に186名がボランティアに登録し運営に参加してくれました。現在も展示案内ボランティア、教育普及ボランティア、資料の保存管理を手伝っていただくIPM※ボランティア、寸劇ボランティアなどさまざまなシーンで市民ボランティアが運営に参加しています。

※IPM:Integrated Pest Managementの略。資料や展示への有害生物による被害を抑えること。


寸劇ボランティア

博物館×伝統工芸

当館には、伝統工芸体験工房という施設が併設されていて、銀細工、陶芸、長崎刺繍、染め、ステンドグラスなどの長崎の伝統工芸に取り組む市民グループの活動拠点になっています。来館者向けの制作体験のほか、毎年「長崎伝統工芸まつり」を開催し、活動の成果を見ていただいています。また、2017年に長崎べっ甲が経済産業省の指定する国の伝統的工芸品に指定されたことを機に、長崎べっ甲の歴史と魅力を改めて発信しようと地元のべっ甲職人さん、べっ甲業界、それから長崎県と長崎市の商工部の方々と協力して特集展示を開催しました。

 
(左)伝統工芸体験工房とのコラボ「長崎の染塾」(右)べっ甲業界×行政とのコラボ 特集展示「長崎べっ甲」

博物館×くんち

「長崎くんち」は、国の重要無形民俗文化財にも指定されている江戸時代から続く伝統の祭りです。当館ではイベント広場など博物館の施設をくんちの稽古や本番前の“庭見世”という行事のために開放しています。また、祭りのシーズンに合わせて「くんち展」を開催し、地域と一緒になって祭りを盛り上げています。この取り組みが地域の人たちとのつながりを一層深めるきっかけになりました。

 
博物館のイベント広場で祭りの稽古
 

 博物館×自治会      

長崎くんちをきっかけに町の自治会とのお付き合いが始まり、それがご縁となってそれまで博物館主導でやっていた「長崎奉行所夏祭り」を、近隣の自治会と一緒に開催するようになりました。これによって夏祭りの来場者が飛躍的に増え、自治会側でも町内が一つにまとまることができたと喜ばれています。


近隣の自治会の協力で祭りの内容も充実

博物館×地域産業

長崎県はお茶の産地でもあり、東彼杵(ひがしそのぎ)町はその産地の一つです。私自身、お茶に興味があるので、東彼杵のお茶の魅力をもっと伝えたいと思い、長崎県で初めて全国お茶まつりの全国大会が開かれた年に県の農産園芸課と相談し、東彼杵のお茶農家をめぐるスタディツアーを開催しました。東彼杵町役場をはじめNPO、お茶関係の協議会などたくさんの人々の協力を得て、とてもよい企画になったと自負しています。

 
(左)茶葉の栽培に適した気候風土の東彼杵(右)「東そのぎのお茶めぐり」ツアー

博物館×子ども

歴史系の博物館は、子どもたちには敷居が高く感じられます。当館では、小さな頃から博物館に慣れ親しんでもらおうと、幼児を対象とした「はくぶつかんのおはなし会」、小学生を対象とした「れきぶんこどもクラブ」や「こども茶道クラブ」などさまざまな子ども向けプログラムを提供しています。また、学校向けのプログラムとして「見学対応」、「移動博物館」、「出張授業」、「遠隔授業」に取り組むほか、先生方と一緒に博物館を使った学習を考える「パートナーズプログラム」も実施しています。


学校団体の見学対応を行うスクールプログラム



最後に体験を通じて感じた、地域と連携していく上で大切なことをお話します。
一つはスタッフの意識改革です。ともすると博物館は自分たちスタッフが働く場所と考えがちですが、「博物館はスタッフのものではなく地域の人たちのもの!」という意識を持つ必要があります。地域社会はいろいろな可能性を秘めています、地域社会にどんな人がいて、何を一緒にできるのか、常にアンテナを張り巡らせておくことが大切です。
もう一つは、人と人との出会いを大切にして、コミュニケーションを図っていくことです。一緒にやっていく上で、同じ目標と意識を持って取り組む必要があります。
あとはなんといっても情熱(パッション)と創造力(クリエイティビティ)。それとやっていること自体を楽しむことです。こういったことを改めて心に留めながら、博物館運営を充実させていきたいと思っています。

参考資料 :長崎歴史文化博物館の教育活動 
乃村工藝社グループの長崎歴史文化博物館実績はこちら 

【お知らせ】
乃村工藝社が企画・プロデュースした、明治・大正・昭和にわたる約120年の博覧会の歴史を振り返る展覧会「博覧会の世紀 1851-1970」を長崎歴史文化博物館で開催しています。詳細はこちら
主催:長崎歴史文化博物館、乃村工藝社/会期:2021年10月2日(土)~11月28日(日)

 

今回ご紹介した長崎歴史文化博物館を筆頭に、15年以上にわたり地域に根付いた施設運営を行っている乃村工藝社グループのPPP事業は、まさにソーシャルグッドの先駆けと言えるでしょう。博物館の空間づくりだけにとらわれず、地域ボランティアと協力することはもちろん、積極的に地域に出て接点をつくっていく運営は、これからの時代において地域に根差したさまざまな施設づくりに活かしていけるノウハウであると感じました。(ノムログ編集部)

文:岩崎唱/写真:安田佑衣

 
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