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市川 愛 プランナー
プランナー

花、いけに行っていいですか? LOQUAT Villa SUGURO

2022/09/07
この企画は乃村工藝社が空間づくりをお手伝いした空間に、乃村工藝社のプランナーをしながら草月流の華道家としても活動する市川がお邪魔し、クライアントや担当デザイナーと対話をしながら、空間にあったいけばなを制作するものです。

今回は、2022年7月1日に開業した『LOQUAT Villa SUGURO』(以下SUGURO)に祝い花をいけに参りました。

   
 
まずはSUGUROの運営会社である株式会社ARTH(以下ARTH)で広報をご担当されている藤田桃子さんにお話を伺います。


(株)ARTHの藤田桃子さん (写真撮影時のみマスクを外しました)



(市川)
SUGUROは昨年開業したLOQUAT西伊豆本館から車で5分ほどの別邸なのですね。開発のきっかけをお聞かせください。

(藤田さん)
乃村工藝社の協力社として、LOQUAT西伊豆本館の施工を行った地元の総合建設会社である青木興業株式会社の勝呂(すぐろ)さんから、ご実家であるこちらの物件の活用をご提案頂いたのがきっかけです。実際にARTHメンバーで物件を見て素晴らしい古民家でしたので、プロデュースさせて頂くことになりました。施設名称は旧勝呂邸に由来し、SUGUROとなりました。

(市川)
LOQUAT西伊豆本館とSUGUROの違いを教えてください。

(藤田さん)
歴史を振り返るとLOQUAT西伊豆本館がある土肥地区は土肥金山・商業・温泉で賑わうエリア、一方SUGUROがある小土肥温泉地区は江戸時代には代官が住む閑静なエリアで現在もその雰囲気を受け継いでいます。ですので、SUGUROはLOQUAT西伊豆本館と比べ、より静かでプライベートな滞在ができる場所をめざしました。
環境的な違いに加え、ハマム浴をはじめ本館とは異なる体験ができるので、本館に宿泊されたお客様がSUGUROにもいらして頂くケースも多いです。

※昨年開業のLOQUAT西伊豆本館に関してはこちらの記事をご参照ください。
 

古民家再生は引き算と足し算のバランス

開発前の写真を見ながら、当社デザイナーの小糸からプロジェクトのプロセスを聞きました。


(写真撮影時のみマスクを外しました)



解体前の旧勝呂邸


(市川)
最初はこの状態からのスタートだったのですね。

(小糸)
旧勝呂邸は明治43年築の主屋に対し、昭和時代に増築が繰り返されていました。確認申請を伴う建築基準法ができたのは昭和25年ですので、それ以前に建った建物は現在建っていても問題ないのですが、それ以降で確認申請等がない建築物は違反建築物にあたり、取り壊しが必要でした。


少しずつ取り壊しながら主屋と牛小屋を使うことが決定した


(小糸)
法的に問題がない建築物になった状態から、宿泊施設へと変えるため、少しずつ取り壊しを進めていきます。最初に決めた範囲をただ壊すだけでなく、地元をよく知る大工さんとチームメンバーで議論し、日々範囲を修正しながら、解体していきます。

古民家は一般的な現代の建築と違い、解体したものを取り戻すことができません。法的、構造的、デザイン的なバランスを追求してどこまで引き算していくか、そして、引き算した状態からどのようにどこまで足し算していくか、これを見極めることが古民家再生を進めるうえで、最も重要で、難しいところであり、かつ面白いところでもあります。



(小糸)
素晴らしいゴールが見える瞬間を目指して、引き算していくのですが、今回の場合は建物奥の沢の景色がみえたこの写真の状態になった段階がその瞬間でした。検討してきたものが正しく、そして成功すると確信できたのです。



素晴らしいゴールが見える瞬間


続いて、当社デザイナーの井上に、足し算のプロセスとして作り上げていった空間のポイントについて、そしてLOQUAT西伊豆副支配人である三浦さんに、実際に宿泊されたお客様の声を伺いました。

(市川)
設計していくうえで、こだわったポイントはどんなところでしょうか?

(井上)
SUGUROの名称は旧勝呂家に由来していますが、この邸宅の大黒柱や梁などに立派な木材が使われているのは、先代が林業を営んでおり、自身の山から切り出してきた木材で建てられた建物だからです。その建物の良さを最大に生かすため、天井は極力スケルトンにすることで小屋組みを露出させ、生活の営みを感じさせる囲炉裏の煙で黒ずんだ柱梁などはそのまま魅せることを心掛けて設計しました。

(市川)
建物に入る前、門を入って最初に迎えてくれる庭園がシンボリックですね。




庭のメインとなるのは小松石


(井上)
庭の景石として用いた小松石は、かつては伊豆から西湘地域にかけて採られており伊豆石とも呼ばれていました。庭園は季節の変化が楽しめる落葉樹と、周囲からの視線を遮るための常緑樹、そして檜皮を用いた塀で構成されています。

(三浦さん)
宿泊者の方から、中庭の作りこみが素晴らしいという反響を頂いています。

(井上)
それは嬉しいです。


檜皮葺(ひわだぶき)の塀 (写真撮影時のみマスクを外しました)


(市川)
建物に入ると、美しい緑が目に飛び込んできます。



(井上)
改修前は壁が多く閉塞感がある空間でした。この立地の一番の魅力は建物の奥に流れる沢の景色ですので、沢側を大きな窓とすることで、建物の中に入った第一印象を“沢を彩る木々”でおもてなしできないかと考えてご提案しました。

(三浦さん)
対岸のケヤキの木を日が暮れた後にライトアップしているのですが、宿泊者の方はもちろん、周辺にお住まいの方の散歩ルートとしても楽しんで頂いているようです。

(市川)
SUGUROの開業が人の流れをつくるきっかけになっているのですね。


象徴的なキッチンカウンター


(井上)
SUGUROの魅力の1つとして、居室内に備えたキッチンがあります。存在感のあるキッチンでは、LOQUAT西伊豆のシェフが選び抜いた食材を使って自ら料理を楽しむことも可能です。人との関わりのない一棟貸ではなく、食材の香りや調理する音などの五感に触れる要素を大切にした宿泊体験ができます。LOQUAT西伊豆と連泊して、1泊目はレストランでの食事、2泊目はこちらで自分で調理を楽しむのも良いですね。

(市川)
贅沢な時間が過ごせますね。


ダイニングから1段上がったリビングスペース、屋外デッキも室内の床レベルに合わせられている


(井上)
ダイニングやリビングなどの空間の切り替えは建具で仕切るのではなく、レベル差で空間を分節しています。加えて屋外空間と内部空間が一体的になるよう、屋外デッキは内部空間と床レベルを揃え、リビングが屋外まで延長されたような印象をつくり、建具の存在を感じさせない設計としました。

(市川)
沢の景色が魅力のリビングダイニングに対し、庭園側に設けられたのが寝室ですね。


寝室とリビングを仕切るのは葛布の建具(写真右手)


(井上)
寝室はプライベートな空間なので、気配を感じつつ空間を軟らかく仕切れるよう、葛布の建具をデザインしました。リビングダイニングの男性的でダークな雰囲気に対して、寝室は、明るい色合いの楢材を寝台に用い、和の柔らかい表情を感じさせる障子行灯をヘッドボードに設え、ゆったりとリラックスできる清潔感のある空間を目指しました。
寝室にも天井はあえて設けず、小屋組みを愛でながら就寝できるという古民家の醍醐味を味わっていただくことを大切にしています。その分床暖房などで寒さ対策はしっかり行っていますので、快適に過ごすことができます。

(三浦さん)
寝室は1部屋2名様ずつ、最大4名様まで利用可能なので、おふたりでの利用はもちろん、小さなお子様連れのふた家族が一緒に滞在されるケースもありました。

(市川)
子供も宿泊OKなのですね、私も家族で来てみたいです。



古民家にとって重要な土壁


(市川)
リビングダイニング、寝室共に土壁が象徴的です。

(井上)
呼吸をする土壁は古民家にとって非常に重要な素材です。壁の一部を解体して現れた当時の土壁は風合いが良かったのでそのまま生かし、塗り替えが必要な部分は、小土肥地区の土をふるいにかけて土壁の材料を作りました。江戸時代の代官がいた頃の地産地消の営みに近づけるために、材料の入手ルートにもこだわりました。

(市川)
キッチンの奥に温泉とシャワー、ハマム浴があるのですね。


陰影が美しい左官壁


(井上)
サニタリーエリアの壁は土壁用の下地材をそのまま仕上げ材としています。職人さんが作ってくれたコテムラの質感が良かったので、そのまま採用になりました。照明計画によって陰影を際立たせています。



(井上)
露天風呂を作ったエリアはもともと牛小屋です。既存の構造を補強して、湯船の半分だけ屋根がかかる構造にしています。屋根の外に出れば星空を堪能でき、雨の日は安心して屋根の下での入浴を楽しむことができます。

(三浦さん)
ハマム浴と露天風呂を滞在中いつでも楽しめる点は、特に女性のお客様に大変喜んで頂いています。

(市川)
サウナよりも温度の低いハマム浴はゆったりと楽しめそうですね!
 

SUGUROにいける




さて、たっぷりと話を伺った後は、いよいよ開業の祝い花をいける時間です。

SUGUROの窓から見える沢の景色に呼応するように花材は緑を中心に、かつ7月の季節感を感じるものを選びました。花材準備にご協力いただいたのは沼津にあるAPPLE SEED FLOWERSさんです。

花器はSUGUROが古民家であるというアイデンティティを際立たせるような、藤原和さん作陶の備前焼です。

まずはキッチンカウンターの上から。
この場所はお客様が入ってこられる玄関からもよく見え、かつダイニングやリビングからも目に入る位置になりますので、ある程度距離があっても楽しんで頂けるように、高さのある作品にしていきます。


藤田さんも手伝ってくださいました、ありがとうございます。


 

お客様がキッチンの後ろ側に回られても、裏側を見せられているように感じないように後方にも花材を入れました。






花材:がま、われもこう、あじさい、のりうつぎ、夏椿、スモークグラス




続いて、ダイニングテーブル上での制作です。座った時に相手の顔が見えなくならないように低く、そして沢への繋がりを感じさせるように、器の中の水を見せながら伸びやかさをイメージしてを作っていきます。







花材:のりうつぎ、夏椿、ふうせんかずら、スモークグラス


座った席によって違った表情を楽しめるようにすることで、テーブルを囲むお客様の会話がはずむことを願って生けました。



藤田さんに伺った開発の背景やデザイナーに聞いた設計の意図を踏まえ、空間と対話しながら、作品作りを行いましたが、SUGUROらしい祝い花になっていますでしょうか。
取材にご協力いただき、いける機会をくださった(株)ARTHのみなさまに心より感謝申し上げます。

次回は7月31日にLOQUAT西伊豆で行われた夏祭りの様子と、そこでのライブいけばなの様子をお届けします。

LOQUAT Villa SUGURO担当デザイナーのご紹介


小糸紀夫
1971年、東京都生まれ。明治大学建築学科卒業、ゼネコン・設計事務所・ベンチャー企業を経て、2007年、株式会社乃村工藝社入社。「地域に循環を起こす」を常に考え、仕組みそして骨格づくりから「プロジェクトをデザインする」。


井上裕史
1981年、岡山県生まれ。東京藝術大学大学院修了後、2007年、株式会社乃村工藝社入社。コミュニケーションを誘発する「仕掛けのある空間づくり」を得意とする。

LOQUAT Villa SUGURO
https://loquat-nishiizu.jp/#suguro 
 
市川 愛 プランナー
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