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NOMLAB : NOMLAB(ノムラボ)は乃村工藝社の空間のプランナーを中心としたプロ集団ですNomura Open Innovation LAB

空間と体験に溶けるナビ

作成日時:

永野 航

永野 航
こんにちは、NOMLABの永野です。
空間デザインを主軸に、映像や光といったデジタルな演出と空間との橋渡しをしています。

そんな私は趣味兼ダイエットとして、サイクリングをしています。
そもそも運動嫌いで、元々サイクリングにも全く興味が無かったのですが、十数年乗っていた自転車が壊れた時にたまたま中古のスポーツバイクを買ったことがきっかけではまってしまいました。
そもそもがめんどくさがりなので、無駄なことはしたくありません。ところが都内周辺はドアtoドアで考えると電車と同じくらいの時間で目的地に到着できることにまずは驚きました。そんなこんなで普段の移動を自転車にしていたらだんだんと距離感がバグり、「20Km?近いな」、みたいな感じ方になってしまいました。

自転車の頼れる相棒はナビです。どんな移動手段でもそうですが、ナビさえつけておけば必ず目的地にたどり着けるという安心感があります。そして道を間違えて無駄なことをしてしまったなぁ、といった後悔も生まれません。
ところで、自転車のルート検索は歩行や車のナビよりも難しいことが多いです。坂道や砂利道、風の影響などを考慮して最適な経路を探すのは難しいのです。その結果かはわかりませんが、ナビは同じ出発地と到着地でも微妙に異なるルートを案内することがあります。
行ったことがある道ですからナビに従わなくてもたどり着けるのですが、そこで試しにナビに従ってみるとこんな道があったのか、という新しい発見があったりします。
案内されたルートは基本的にはナビが導き出した”最短”経路というお墨付きがあり、それでいて今まで通ったことのない場所への気づきという楽しさを提供してくれる。もちろん気の向くままに移動してみる冒険の楽しさというものはありますが、この時間のない現代において納得感のある冒険を提供してくれるシステムはとてもありがたい存在です。

 
サイクリング

世界の広さを変えたナビ

ナビという話で言うとGoogleとスマホの登場によって旅行の体験が大きく変化したということはよく言われているかと思います。

特に昔を思い返してみても海外旅行の変化はすさまじいものがあります。
以前の海外旅行は事前のリサーチにもかかわらず、全然思い通りに行かず冒険の連続でした。しかし昨今ではGoogleで検索すればほとんどの情報が手に入り、道に迷うことはほとんどありません。言われた通りに電車に乗って歩けば目的地についています。まるで同じ日本にいるのかと思う位には世界の体感としての広さは急激に狭くなりました。
そんな物足りなさを、まるで青春を懐かしむような感情を持ちながらも、では海外旅行が楽しくなくなったのかというとそんなことはありません。ベーシックな移動の最適化は結果としてローカルな冒険を楽しむ機会や時間を増やすことにつながりました。
人々の移動体験と空間体験はナビという仕組みによって激しく日々変化しています。

 


 

空間の中にはナビとしての要素が溢れている

ここで自分の主戦場である空間設計に視点を向けてみます。

どんな建物にもたいていサインや案内板があります。最近はデジタルサイネージ等で案内を表示することも多いでしょう。
また、直接的なサイン以外にも空間の形状や明るさ等によって人を誘導したり、建具によって動きをコントロールしたりと、様々な手法で人々をナビしています。
こういったサインの手法は太古の昔から行われており、何なら日本はこういったサインが過剰とすら言われています。コンビニのコーヒーメーカーに大量のテプラが貼ってある画像を見たことがある人も多いかもしれません。
では前段で話していたナビと、この昔からある空間のナビの大きな違いは何でしょうか。
主観ではありますが
・デジタル化されている
・パーソナライズ化されている
この二つがとても重要ではないかと思っています。
そしてその中に更にあいまいさ、遊び心、ちょっとした無駄を設けてあげることでサイクリングのようにより空間体験が豊かで楽しく、かつ直感的でスマートな体験が生まれるはずです。

 


 

デジタル化、パーソナライズ化されたナビを空間に取り込もう

スマホを見て歩いていたら周りの景色を見逃した、そんなことがよくあると思います。
もちろんナビはスマホや専用端末であるからこそ高いパーソナライズ化を達成できますし、最大限の機能を発揮しますが、近年の技術の進歩によってそういった機能が空間にも取り入れられる土俵が整ってきています。
ソフトウェア的側面はスマホ等のナビとある程度共通化できるという考えでいうと、空間として注目するべきはハードウェアです。
近年の技術革新にはわかりやすく派手なデジタル技術よりも、設計思想や仕組みにデジタル技術を取り入れることで従来の素材や機能性に新たな付加価値を与えるような分野が多いです。
一見従来の建材のような見た目でありながら、その背後から実はデジタル制御された光、音、匂いといった要素がリアルタイムに表出する、そういった素材・表現の技術です。まだまだ普及レベルにはいたっていないですが近い将来普段の内装設計の素材選定の中で当たり前のようにそういった技術・素材を選択する時代が来るでしょう。

例えば、、
普段何気なく腰掛けるようなベンチが絶妙な振動でその場との一体感をより盛り上げてくれる、逆にうとうとしている時に寝過ごしてはいけないタイミングで起こしてくれるかもしれません。
空間ごとに細かく制御された香りがその場でリラックスしたい人に影響を与えずにお腹がすいている人だけをレストランがあるエリアへと導くといったことも近い将来実現しそうです。
何気なく壁を触ってみると振動や暖かさで熱気を感じる(実は壁の向こうでライブが行われている)みたいなことがいたるところで起きていると街歩きがもっと楽しくなりそうです。
空間として重要なマテリアル感のある空間から必要な時だけ光や音、におい等で情報が浮かび上がりナビをしてくれる。そしてその情報が近くにいる人をセンシングしてパーソナライズ化されている。そんな未来の空間を作るべく、色々な技術的情報をキャッチアップしながら日々設計をしていきたいと思います。
 

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